03 放課後の訪問者
放課後のチャイムが鳴った瞬間、悠斗が僕の席まで一直線に来た。
「誠、行くぞ。ほら、早く」
「まだ荷物……」
「いいから!今日はお前んち直行!」
相変わらず勢いだけはある。
校門を出ると、冬の空気が頬に刺さった。
でも、昨日より湿っている気がする。
気のせいだろうか。
「でさ、父さんが選んだやつの“ちょい上”ってどんな感じなんだよ」
「……見れば分かるよ」
言い方、ちょっと強かったかな。
なんか申し訳ない。
家に着くと、玄関のセンサーが反応して、下駄箱のあたりに灯りがふっとついた。
靴箱の前には妹のランドセルが転がっている。
でも靴はない。
たぶん近所の友達の家に遊びに行ってるんだろう。
(……よかった。
今日は部屋に突撃されずに済みそうだ)
「お邪魔しまーす!」
悠斗は靴を脱ぎながら、もう半分走っている。
廊下の奥、父さんの仕事部屋のドアは閉まっている。
中からキーボードを叩く音がかすかに聞こえた。
今日もリモート会議か何かをしているんだろう。
「誠の部屋、こっちだよな?覚えてるぞ」
「覚えなくていいよ……」
部屋のドアを開けると、コピオがすぐに反応した。
『おかえりなさい、誠さん。
こんにちは、悠斗さん』
「うおっ……しゃべった……!
これだよな? このPCがしゃべってんの?」
「まあ、そういうことになるね」
「まじか~……テンションあがる~!」
悠斗は机に駆け寄り、ノートPCを覗き込む。
「触っていい?」
「うん、どうぞ」
悠斗は慎重にタッチパッドを動かしながら、
画面に映るコピオのアイコンを見つめた。
「これ……なんか誠っぽいよな。声も似てるし」
「似せてあるらしいよ」
「らしいって……お前が設定したんじゃないの?」
「いや、気づいたらこうなってた」
「こえーよそれ!」
悠斗は笑っているけど、
僕はちょっとだけ背中がむずがゆい。
『誠さん』
コピオが静かに言った。
『今日の湿度、やはり異常です。
この地域の平均値を大きく上回っています』
「また湿度……?」
「うん?どうした誠」
「いや……なんでもない」
窓の外を見ると、
夕方の空が、いつもより少しだけ重たく見えた。
風の音が、昨日と同じように湿っている。
まるで――
海が近づいてきているみたいだ。
「誠、これさ、スペックどんな感じなん?」
「あ、うん。そこにまとめてあるよ」
悠斗の声が現実に引き戻してくれる。
でも、胸の奥のざわつきは消えなかった。
コピオの画面に、青い光がふっと灯る。
『誠さん。
ひとつ、気になるデータがあります』
「……何?」
『この湿度の変化、
“海風のパターン”と一致しています』
海風なんて吹くはずがない。
なのに――
僕の部屋の空気は、確かに海の匂いがした。




