02 最初の違和感
コピオを起動してから、まだ数時間しか経っていないのに、
僕の部屋の空気はどこか変わった気がした。
『誠さん。
先ほどの操作ログから、興味の傾向を推測しました』
「お、おう……なんか勝手に分析されてる感じだな」
『最適化の一環です。
誠さんの“思考の癖”を学習しています』
思考の癖。
父さんがよく笑いながら言っていた。
「誠は何でも仕組みで考えるよな。
……誰に似たんだか」
いや、絶対父さんだろ。
心の中でツッコむ。
スマホが震えた。
――悠斗:この前のPCなんだけどさ、今めっちゃ親と交渉中。
高い買い物だから慎重にって言われてる。
ああ、そうだ。
悠斗の家はPCに詳しい人がいない。
正月に会う親戚のお兄ちゃんに聞くつもりだって言ってた。
僕はスマホを持ち直し、メッセージを打つ。
“父さんが色々調べてくれたやつだよね。
実は……なんか僕の方に先にPC届いたんだ。
父さんが悠斗の懐を考えて選んだエントリーモデルより、
ちょっとだけ上のやつでさ……。”
本当は「ちょっと良いやつ“らしい”!!」なんて書きかけた。
でも、こういう余計な一言は、いつも妹が言うやつだ。
僕は、送信前にその部分をそっと書き換えた。
数秒後、すぐに返ってきた。
――悠斗:は?
なんでお前んちに先に届くんだよ。
てか、ちょい上って何だよ。
明日、放課後お前んち絶対いくからな~見せろ~!
……確かに、なんで僕の方が先に届くんだろう。
悠斗の方が先に欲しがってたのに。
父さんは“誠にも本物を触らせたい”って言ってたけど……
それにしても、ちょっと不思議だ。
ふと、“コピオ”という名前をつけたときのことを思い出す。
もう一人の自分、みたいな意味でつけたんだけど……
実は“io”は I/O のことだ。
入力と出力。
世界の仕組み。
父さんに言ったら絶対ニヤニヤされるから、誰にも言ってない。
自分だけの秘密みたいで、ちょっと嬉しい。
『誠さん。
明日は学校ですか?』
「そうだよ。なんで?」
『放課後、悠斗さんが来るのですね』
「……なんで分かるんだよ」
『誠さんの声の揺らぎから推測しています』
こいつ……
僕より僕のこと分かってる気がする。
でも、嫌じゃない。
むしろ、少し安心する。
『誠さん。
ひとつ気になることがあります』
「ん?」
『窓の外の風の音が、観測データと一致しません。
湿度が高すぎます』
「湿度?」
僕は窓に近づき、そっと耳を澄ませた。
ザァァァァァ……
冬の風にしては、湿っている。
まるで――
海の近くで聞く風みたいだ。
海なんて、遠いのに。
『誠さん。
この音……少し、変です』
「……だよな」
胸の奥がざわついた。
このときはまだ、
ただの“気のせい”だと思っていた。
でも――
この違和感が、僕を海へと導く最初の“入力”だった。




