17 幼い日の匂い
朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。
廊下の向こうから、妹のはしゃぐ声が聞こえてくる。
「にぃに! サンタ来たよ! 見て見て!」
誠は布団の中で丸くなったまま、
しばらく動けなかった。
胸の奥の空白は、夜よりも少しだけ静かになっている。
けれど、消えたわけではない。
(……呼ばれた……気がした……)
あの感覚だけが、まだ身体のどこかに残っていた。
ゆっくりと起き上がると、
部屋の空気がひんやりしている。
冬の朝の匂い。
でも――
(……なんか……懐かしい……)
胸の奥が、ふっと揺れた。
理由は分からない。
でも、幼い頃の“何か”が触れたような気がした。
机の上に、小さな包みが置かれていた。
包装紙の柄は、妹が好きそうなクリスマス模様だ。
(……プレゼント……)
誠はそっと手に取った。
軽い。文房具か、何か小さなものだろう。
その横に、水筒が置かれている。
いつの間に置かれたのか分からない。
中のお茶は、もう冷えていた。
その冷たさを見た瞬間――
胸の奥に、別の“冷たさ”が浮かんだ。
水の匂い。
夏の風。
木の板の感触。
夢の断片が、また静かに揺れ始める。
(……あれ……いつの……)
誠は自分の手を見つめた。
小さな頃の自分の手の感覚が、
ほんの一瞬だけ重なる。
その瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
(……思い出したくない……
でも……)
誠は布団の上に座り込んだまま、
しばらく動けなかった。
窓の外では、冬の風が木々を揺らしている。
その音が、なぜか遠い夏の音に聞こえた。
(……なんで……今になって……)
問いは浮かぶのに、答えはどこにもない。
ただ、胸の奥の空白が、
ゆっくりと、ゆっくりと広がっていく。
その空白の縁で――
幼い日の匂いが、確かに揺れていた。




