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中二病の地球防衛論~最強チートは雑草だった~  作者: とまCo
第2章

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16 食卓の光の外側で

 テーブルの真ん中には、

 クリスマス用のチキンと小さなホールケーキ。

 妹はテンションが天井を突き抜けていて、

 母は忙しそうに皿を並べていた。


「誠、やっと来たのね」

 母が少し安心したように言う。


「大丈夫か?」

 父は短く、それだけ。


「にぃに、ここ座って!」


 誠は席についた。


「にぃに、ケーキ切るの見ててね!」

 妹は椅子の上でぴょんぴょんしている。


 家族の明るさが、少しだけ遠く感じる。


「……あの……変な夢、見たんだ」

 ぽつりと誠が言うと、

 母が顔を上げた。


「夢?」


「……湖で……落ちて……

 なんか……光が……」


 言葉にすると、胸がざわつく。


「ああ、それ」

 母はあっさり言った。

 誠は胸の奥がひゅっと縮むのを感じた。

「誠が小さい頃よ。四歳の夏。覚えてないの?」


「え……」


「船着場で落ちたことあったろ」

 父が続ける。

「いとこたちと遊んでてさ」


 誠は息をのんだ。


(……本当に……?)


 夢の中の光が、胸の奥で揺れた。


「夢のせいで暗かったのね」

 母は納得したように微笑んだ。


「にぃに、ケーキ食べよ!」

 妹は無邪気に笑う。


 誠は返事ができなかった。


 家族の声が遠くなる。

 食卓の光が、少しだけ眩しい。

 光が届いているのに、

 自分だけ影の中にいるようだった。


 胸の奥に、また“あの空白”が広がった。


 * * *


 クリスマスディナーが終わる頃には、

 外の風はすっかり冷たくなっていた。


「誠、ケーキもう一切れ食べる?」

 母が皿を差し出す。


「……いい。お腹いっぱい」


 誠は静かに答えた。


 妹はまだテンションが高く、

 父は食後のコーヒーを飲みながら

 テレビのニュースをぼんやり眺めている。


 家族の空気は明るい。

 でも誠の胸の奥だけは、

 まだ夏の湖の底みたいに冷たかった。


「マコ、顔色悪いぞ」

 父がふと気づいたように言う。


「……大丈夫」


 誠は短く返した。


 大丈夫じゃない。

 でも、言えない。


 母が心配そうに眉を寄せる。


「夢のせいで疲れたのかもね。

 今日はもう休んだら?」


「……うん」


 誠は席を立った。


 * * *


 自分の部屋に戻ると、

 さっきまでの明るい食卓の音が

 嘘みたいに静かだった。


 布団に潜り込むと、

 夢の断片がまた浮かんでくる。


 光の粒。

 水の冷たさ。

 耳の奥の震え。


(……だれ……?)


 あの“存在”の感触だけが、

 妙に鮮明だった。


 でも思い出そうとすると、

 胸の奥がきゅっと縮む。


「……っ……」


 誠は枕を抱きしめた。


(……夢……なのか……?

 でも……あれ……)


 4歳の夏の出来事だと母は言った。

 父も覚えていた。


 家族にとっては“昔の話”。

 でも誠にとっては――


(……違う……

 あれは……ただの記憶じゃない……)


 胸の奥の空白が、さらに広がる。


 その空白の縁で、

 何かが微かに揺れた気がした。


 誠は目を閉じた。


 部屋の静けさが、

 耳の奥にじんわりと染み込んでいく。


 遠くで、家族の笑い声が聞こえた。


 その温かさが、

 今の誠には少しだけ遠かった。


 * * *


 夜が深くなるにつれて、

 家の中の音がひとつ、またひとつと消えていった。


 妹の笑い声も、

 母の食器を片づける音も、

 父のテレビの音も。


 全部、遠くなった。


 誠は布団の中で横になったまま、

 天井をぼんやり見つめていた。


 言葉にならない。

形にもならない。


 ただ――


(……呼ばれた……気がした……)


 夢の中で触れた“存在”が、

 胸の奥で静かに震えている。


 誠は再び目を閉じた。


 暗闇の中で、

 光の粒がゆっくりと揺れる。


(……だれ……

 なんで……俺……)


 問いは浮かぶのに、

 答えはどこにもない。


 ただ、胸の奥の空白だけが、

 静かに、静かに広がっていく。


 その広がりの中で――


 誠は、ひとりで沈んでいった。

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