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炎龍討伐

 いきなりだが、最近肩が凝るようになってきた。これは歳のせいだからか、どうかは分からない。だが、こんな最弱の魔王でも炎龍の群れぐらいなら、朝飯前だ。ここで、ひとつカッコいい魔王の姿を見せてやろう。


「アークルーズ様、お持ちしました。」


 メイドのワーシロップの手に握られていたのは、大きなものだった。スーツケースのような硬いケースの中に入れられている。


 これが、うちの家系に代々受け継がれている武器だ。しかし、これを使うと翌日は肩周りがひどい筋肉痛に襲われる。それでも、魔力を使うよりは疲れないので、こちらを使う。


「それじゃあ、行ってくる。そのワガママな天使様を頼むぞ。」


「承知いたしました。無事に戻ってきてください。それと……、本当に申し訳ありませんでした。自分でも身勝手な行動だと、反省してます。」


「いいんだよ。だって、ワーシロップはいつも完璧だし。少し、こうやって怒ってくれたりすると俺も嬉しいし。」


(まぁ、俺に対しての毒舌を弱めてほしいけど)


笑顔で別れを告げると、静かに湖を出発した。



 数分後、俺は実際の集落にやってきていた。遠くから見るとなんの異常もないのだが、近づいてみると確かに異常。大きく目立つのは街の広場の、いくつもの卵。多分、炎龍のものだろう。まずは、それを潰すことから始めるとしよう。


 ケースの中から、武器を取り出す。うちの家系に伝わる魔界に伝わる六つの武器。

【第六魔器 亡霊(ファントム)

 形は大鎌だ。ハルピュイアの血を持つものは、体格には恵まれない。それを補うために作られたのが、この鎌だ。力のなさを遠心力で補う。その代わり、体全体の筋肉を使わないといけない。そして、動きは遅くなる。


 そのため、隙を見せずに戦う方法を幼少期から叩き込まれる。まぁ、その大半をサボっていたのが俺なのだが。


(さーて、まずは1個目。さっさと終わらせよう)


 大きく鎌を振り上げた時だった。鎌が何かに当たった感触があった。焦げ臭いような、獣臭い匂いが鼻を刺す。ゆっくりと目を上げると、多分こと卵の持ち主であろう龍がこちらに鼻息を吹きかけている。口から垂れる唾液が、俺の顔を濡らすが、それ以上に体全身から汗が吹き出す。


(いきなり、ボス戦? 思っていたよりもデカいんだけど……)


 考えるよりも早く身体が行動していた。素早く、鎌を回転させ刃がついている方を向けると、喉を掻き切るように横向きに大きく振った。うまく、当たったようで血液が吹き出ている。生暖かい血液ぐ気持ち悪い。そのまま、横に張った遠心力を使い、真下にあったいくつかの卵を叩き割る。軽快な音と、目玉焼きにしたら美味しそうな黄身が出てくる。


 やっぱり、この武器重いな。振り回すだけでも、疲れた。早く帰ってしまいたい。だからこそ、早く仕事を終わらせよう。その少しの時間にも、周りの空気が温められ、身体中から汗が吹き出す。


 天使からの情報によると十羽ほどの群れだったそうだから、残りはだいたい九羽。顔を上げると、地に落ちた一羽を見て、残りの九羽が威嚇をしている。


 炎龍の討伐の際に気をつければならないのは、炎を吐かせないこと。だから、まず狙うのは首。空中に飛んでいるので、俺も強く飛び上がる。素早くに大きく鎌を振り下ろす。空気をきる音が心地よく響いた。


そして、大きく首を切り落とすと、その個体を足場にして次の一羽を狩っていく。それを繰り返すだけだ。


飛ぶ、切る。飛ぶ、切る。その繰り返し。


 いきなり、周りの熱気が高まった。一体の口がこちらを向いているのだ。そこから炎の術式の魔法が展開されている。避けるのも面倒だ。一回くらいは耐えられる。


 鎌を盾にしながら防ぐ。この鎌の原料はただの金属ではないから、熱されて握れなくなる、なんてことはない。落ち着いて対処するのだ。


 大きく振り被り小さな身体で自分よりも何倍も大きい炎龍を倒す。魔王なら、これくらいはできなくてはいけない。それに、俺はもっと強くなっていかなくてはいけないのだから。こんなのは、小さなことだ。


(強くなったら、会ったことがない母さんにも認めてくれるかな?)


 無我夢中に炎龍を狩っているといつの間にか、辺りに生きている生き物はいなくなっていた。重力によってどんどん、龍が地に落ちていく。


「よーし。終わったか。」


 腕を組んで伸びをする。少し肩周りが痛いが、あまり戦闘時間が長くなかったおかげで、思っていたよりもダメージは少ない。


 よし、あいつらのところに戻ろう。


 体を回転させると、湖の方へ歩きだした。あたりには、何もない。いや、何かある。俺の後ろだ。今まであった日の光を何かが遮ぎる。なんだ? まるで骨格のような影が地面に映し出され、後ろを振り返る間もなく俺は吹っ飛ばされていた。



『ねぇ、親父。俺の母さんどんな人だった? 』


彼は少し困ったような顔をし、俺の頭を撫でながらながら答えた。


『人を蘇らせる、聖女みたいな人だったかな?』



意識が薄れているか中で、懐かしい声が頭に響く。死霊術(ネクロマンス)。禁忌の魔法のはずなのに。


 ただ、一つ確かなことがあるとするならば、この勝負、負ける。


 ✴︎✴︎✴︎


「おー!始まったね。ところで、ワーシロップちゃんはさ、アークと会ってどれくらいなの?」


 彼の戦闘を見ていたダイヤが呑気そうに言った。この男はあまり信用ならない。だって、アークの目標を、夢を叶えられる力、情報があるのに、彼はそれをアークに渡さないからだ。


「ダイヤさま。あなたは、アーク様の夢を知っていますか?」


「質問にぐらい答えてよ。もちろん。知ってるよ。あの、くだらないやつでしょ? 本当によくそれだけのことで、頑張れるよね。本当は、すごく怠けたいはずなのに。俺みたいに正直に生きればいいのに。」


 本当にふざけた男だ。主人の夢を簡単に踏み散らす。自然と、眉間にシワがよってしまう。


「それなら、なんで叶えてあげないんですかっ?導いてはあげないのですかっ?なんで、なんで。母親に会いたいという、子供らしい純粋な願いなのに……。」


 今にもまた殴り飛ばしそうな勢いの私とは反対に、彼は少し微笑む。まるで、『お前は何もわかっていない』と、でも言うように。


「この世には会わない方がいい人間だっているよ。僕はアークを他の魔王たちや、母親には会わせたくないしね。なんと言っても、僕はアークのことが大好きだ。」


 彼の言葉は強かった。彼は、アークの本来やるべき業務の八割を一人で回している。誰の助けも借りないで。事実、彼の働きのおかげでこの第六魔界は戦争が起こることもなく、今日も平穏な日々が続いている。これが、何よりも彼が優秀である証拠だ。


「それに、君は一番わかっているのではないか?知らない方がいいことが、たくさんあるっていうことに。ね? 元勇者のワーシロップさん?」


「っ。……。」


 何も言い返せなかった。私が全てを捨てて魔界にいる時点で、そのことを証明しているようなものだ。


 この男が知らない情報なんてない。すべてが、この男が選んだように物語は進む。


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