プリクエル(前日譚)
秋晴れの空を見上げている。
雲ひとつない。空が、高い。
数時間前、それよりずっと高いところにいた。
サッ サッ ザッ サッ
舗装に浮いた砂を踏む音が近付いて来る。
「哨戒機は去りましたが、偵察ドローンが周回しています」
「知ってる。さっきも近くを通ってたから」
「外に出ていたら、狙い撃ちされますよ?」
スペースポートとは名ばかりの実験施設に戻った。
皆、残っていたので、感情的になり口論になった。
ばつが悪くなった。
地上へ逃げ出した。
そう遠くへは行けないが……。
「そういや博士は見掛けなかった」
「お嬢さんと一緒で、移動には時間がかかりますから」
「病気って話してた、悪いのか?」
オペ子は浮かない顔をした。
「彼は計画に不可欠です。弟が、疎開先へ」
「オペ子の弟さん」
「ええ、連絡員の」
姉弟だったのか。
若いのに、どことなく悪人相な男だった。
誰からも好かれる、オペ子とは対照的だ。
全然、似てない。
不意に思い出して御守り袋を開く。
一枚の紙片が入っていた。
随分古い雑誌の切り抜き。
「あのゲームの攻略記事か」
ゲーム画面の荒いドット絵が印刷されている。
その自機は、試作機プリシュティナと瓜二つ。
「似てるだろ?」
「似てますか?」
そう断言するには貧相すぎる情報量。
オレには、それで充分だった。
「なんにせよ、無事に帰って安心しました」
「捨て鉢になってたけどな」
「またまたぁ、御謙遜を!」
「本音だ、本当に助かった」
「短時間で戦闘しつつ揚力飛行の制御算出、神業ですよ」
他人事のように呟いて、青空を見上げた。
その横顔に、ひとつ疑惑が頭をもたげる。
「アレはオペ子が送ってきた帰還ルートじゃないのか?」
問い掛けに、驚いた表情。
この娘の道案内ではない。
あの場にいた誰でもない。
と、すれば。
「神業……か」
神にしか成し得ない、超自然的な出来事。
オレがココにいる理由。
心当たりは、ひとつしか無かった。
「今後の予定ですが、試験飛行で得たデータからシミュレーターを作り、操縦者を選びます。貴方の意見を聞きたいと、博士から言付けを預かりました」
前世でオレが操作した自機。
その受け渡しに、成功した。
「命懸けで盗ってきた前世の知識なんだ。適任者が現れることを祈るよ」
死後の世界で、女神はオレに転生を薦めた。
「世界を救いに行きましょう。泣きっ面の女神が言うから、未来へ来た」
オペ子は小首を傾げた。
「もしかして、一緒に来たんですか?」
「一人旅。神様は色々と多忙なんだろ」
転生して来たのはディストピア。
侵略者の殺戮兵器が跋扈する、未来の地球。
まるで、前世で熱中していたゲームの舞台。
横スクロールシューティングゲームの世界――――