インベーダーの兵器
それにしても、奇妙な話だった……。
ゲームでは入手した武器を選択し、多彩な攻撃ができた。
同様に、敵の武装を鹵獲し使用する機体だと博士は言う。
しかし、実際はそう単純なものではない。
「船外活動でネジ留めか、溶接機がついてるのか? 指向性エネルギー兵器だって燃料供給は必要だろうし、異星人の造ったパーツがコックピットのトリガーと連動できるものなのか?」
地球外で製造された謎だらけの兵器。
JIS規格に適合している可能性は、著しく低い。
「そこは心配御無用」
「不安しかないだろ」
「奴等の攻撃機には様々な形態があり、攻撃も多種多様だが」
「1mから、果ては戦艦サイズまで、空を飛び回ってるけど」
「不可解だ、とは思わんか?」
「まぁ、それは。あれだ……」
地球外生命体、不可思議以外の何なんだ、と。
そんな意味ではなさそうだ。
論旨がわからず、口籠った。
「地球圏の危急存亡。捲土重来を期した反転攻勢で、我々地球人は侵略者に対し、大きな打撃を与えました」
防衛省の内通者は、そこまで言って肩を落とした。
相手は無人機ばかりだった、そんな噂を聞いてる。
地球側は、一方的に疲弊した。
「激甚を極めた消耗戦の末、戦果誤認。哨戒機で参加した父の遺したデータを分析して、それを手土産に防衛省に潜り込みました。異星人には、減った分だけ戦力を補充する余裕と方法があるんです」
政府は戦争不拡大が基本方針。
レジスタンスに助力を求めた。
女から目配せを受け、博士が口を開く。
「見込み違いは生産性。兵器の設計思想だな」
数枚の印刷物を見せられた。
侵略者が送り込んでくる兵器の、機体の一部が写っている。
「武器は全部同じ、1種類しかない」
博士は一番上の写真を、指先で叩いた。
奇妙な球体のパーツがある。
次々と見比べていく。
破壊された敵のドローン、戦闘機、艦載砲の損傷した箇所。
確かに、特徴的な形状は一致している。
サイズ違いがある程度と見受けられた。
「この丸い機械……これは?」
「エネルギー圧縮装置といったものかね」
既存の宇宙船に、この装置を搭載した。
それだけで、対抗できるとは思えない。
「圧縮したエネルギーに信号を印加、その信号でエネルギーを飛翔制御している。恐るべき科学技術の産物、究極の汎用兵器ではあるが……少々、セキュリティ面が御粗末なのは玉にキズだったな」
不敵に笑った博士が、深閑とした地下室を進んだ。
冷えた機体に近付き、その鼻先を叩く。
パン! と、乾いた音が響いた。
「敵の武装を鹵獲して、信号を解析する」
「リバースエンジニアリング、解析結果の再実装……」
「それを複数。好きに選べるとしたら?」
「敵側の最新兵器を無数に搭載した、ウェポンベイか」
博士は満足そうに頷いた。
「エネルギーを蓄える、エネルギーコアは強固なパーツだ。敵機を撃墜しても稀にそのまま残っている。回収して印加された信号を解析。その後は、弾丸や推進剤にエネルギーを再利用する」
一点突破の攻勢作戦、達成条件は、敵中枢の撃破。
アイテムを掻き集めながら、前進するための機体。
「片道切符になる。無論、強要はできんが」
重々しく開いた口、沈鬱な表情。
攻勢極限点を越えた先にだけ、活路が開ける。
反面、後退行動は自ら補給を断つことになる。
武器弾薬はおろか、推進剤まで敵に頼るのだ。
志願する奴はいないだろう。
むざむざ死にに行くだけだ。
自嘲と自虐が、フッと軽く鼻を鳴らしていた。
これでは、まるで――――
「まるで横スクロールシューティングゲームの攻略」
思い出した。
頽廃した環境で過ごすうちに、忘却していた。
「最初の記憶、地球外生命体の侵攻。オレが産まれる前に見た、薄暗いゲーセンのブラウン管に映るデモ画面と同じだった」
彼は「ブラウン管?!」と愕然とした。
そこに驚く人がいるとは思わなかった。
思わず苦笑する。
「前世なんて嘘っぱち、ただの錯覚、それでいい。異星人の兵器、エネルギー弾や光線による侵略、見覚えがあった。それより焦燥感があったんだ。オレは、それを抑えつけて生き延びた……」
博士は「焦燥感」と、オウム返しに呟いた。
今にして思えば至極簡単。たいした知識もないのに世界の命運を握ったり、碌な身体能力もないのに女の子のおっぱいを握ったり、そんな都合良く物語の主人公になれるわけがない。
ただ、今でも耳に残っている言葉があった。
それだけが重要だった。
「前世の知識で、世界を救え。そう言われて未来へ来た」