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追 憶 の 機 体


 連絡員の男は、「俺はここまでだ」と、足を止めた。

 肩をすくめて「まだ死にたくないんでね」と続けた。


 前世の記憶を持っている。

 そう主張するオレに興味を持ったと接触して来て、レジスタンスに誘ったのも、この男だった……そうした経緯を考えると、随分と身勝手な話だ。


 数秒、後ろ姿を見送ってから、振り返る。

 前世で一度だけ訪れたビルは、大きく崩れて瓦礫の山になっていた。



「どうしろと?」



 かろうじて残されたテナント看板に、記憶にあるゲームメーカーの名前を目線の高さに捉えて、フッと鼻先で笑った。


 地下へ降りる階段を探し出し、手探りで暗闇を降りていくと、ほのかに明かりが漏れている扉があった。軽く2度ノック。建物の地上部分からは想像できないほど広い空間が広がっているのが、音の反響からわかる。


 ゆっくり扉を押し広げていく。



 すると。



「いらっしゃいませー!」

「女? ……随分、若い」



 今の地球は横シューの世界だ、と主張するオレ。

 それと似通った噂話の発信源。

 適当にひっつめた髪、無地のパーカー、膝丈スカートにモカシンを履いていて、顔かたちも地味すぎるほど平凡な、年若い女性?



「防衛省防衛政策局調査課の者です」



 自嘲と自虐が、フッと鼻を鳴らす。


 レジスタンスの活動に、政府は否定的立場だ。

 だから彼は手前で引き返したのか。



「公僕。つまり、オレはハメられたのか」



 女は得心したのか、「ああ!」と微笑した。



「市民を強制的に収監し、治安維持のためと権柄ずくに振る舞うのが日常茶飯事。劣悪な環境で命を落とす者も多いから、異星人(エイリアン)よりタチ悪い。貴方もよく御存知の政府関係者で……」



 さらに奥、鉄製の防火扉を「どーぞ」と開いた。



「でも、臨職ですから」

「臨時職員、だから?」

「内通者をしています」

「内通、スパイ活動?」

「博士に案内するよう言われています」



 案内……。



「来たか」



 皺枯れた声のした方向へ首を回すと、机に置かれた小さな明かりが、独りの男を照らしているのが見えた。連絡員が道すがら、「博士と呼ばれている」とだけ説明した人物だろう。



「ここはゲームの世界……例え話にしては、不可解だな?」

「へ?」

「送電網が寸断され、電力は貴重すぎる資源だ。遊具に使っていた過去を知る者は少なくなった。前世で遊んだと説明していたそうだが」



 ぼんやり「はぁ」と生返事した。

 呼び出された意図がわからない。



「まるで空想科学、SFだ。今この世界を取り巻く状況……お前の脳味噌も」



 カツカツと響く、博士が部屋を横切る足音。

 そして、なにかのレバーを押し上げる気配。

 僅かに呻った、駆動音。



「好きなんだろ? こういうモノがな」



 想像より広い空間が、光に満たされていく。


挿絵(By みてみん)


 静かに翼を休める、イビツな形状の航空機。



「こっ……これはッ!!」



 インストラクションカード、通称『インスト』。

 ゲーム筐体の画面両脇、カードが挟んであった。


 左に自機とタイトルロゴ、右は簡単な操作説明。

 そのインストに描かれていた、あやふやな戦闘機のイラスト。


 プレイヤーが操作する自機と、あまりにも酷似した機体ッ!!



「お前、知ってるのか?」

「いや、()()は……初めて見たけど」

「けど、知っている。随分物知りだ」

「奴等より、警察に見付かったら命が危ないだろ」

「ただの宇宙船、非武装のな? 問題にならんよ」



 博士は「そう、非武装の」と自嘲気味に笑った。

 会話が噛み合っていない、妙な違和感があった。



「隣国の研究機関が試験飛行した、有翼宇宙往還機だな。新冷戦下の『制宙権』、宇宙空間での軍事的優位性を目的に、実用段階にあると宣伝するために造られた。使うアテも無かった。高価なオモチャさ」



 あのゲームの自機じゃない……?



異星人(エイリアン)が攻めてくる前の軍拡、宇宙開発競争?」

「この御時世だ。国家崩壊、放棄されていたがね」



 皮肉なものだ。


 無尽蔵に思える攻撃機の数と指向性エネルギー兵器、母船や前線基地は今もって所在不明、昼夜を問わず世界各地に神出鬼没。まさに制宙権を握られてしまった。

 地球人の存亡を賭けて、地球を丸ごと取り戻す作戦。そのフラッグシップ機が、制宙権を主張するためだけに造られた、張子の虎なのだから。



「もっとも、あれは無人の実験機で、これは製造途中の派生モデルを()()()()ものだが」



 この世界に産まれて思い知った。


 破壊を撒き散らす、敵の超兵器。

 人類に、対抗手段は無い。

 静かにしているのが一番。



「未完成の宇宙船か」

「今は違う! 奴等と対等に闘える唯一の機体だ」

「非武装なんだろ?」

「武器なら、腐るほどあるだろ!」

「言ってる意味がわからな…………



 いや……待てよ?

 彼は、「仕上げた」と、言った。


 腐るほどある武器とは、なんだ?


 人類を凌駕するテクノロジー、それに対抗する方法。

 博士は既存兵器を搭載せずに、闘う手段を用意した。


 心当たりがあるとすれば。


 それは。


 右側のインストにあった、説明文。

 陳腐なゲームシステムの、没個性なキャッチコピー。


挿絵(By みてみん)


「 () () () () () () () () () ……だったな」



 敵の武装を鹵獲し、選択肢に加えて拡張できる機体。

 まるでゲームでアイテムを拾い、使用するように!!



「防衛省、お前から説明したのか?」

「まっさかぁ。来たばっかりですよ」

「説明。そう、説明は……ずっと昔、子供の頃に」


 二人は怪訝な表情になり、少しだけ首を傾げた――――

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