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転生先は未来の地球


 意識が覚醒した。



 耳元で無遠慮に響くアラーム音。

 コンソールを操作して、切った。


 周囲は黒曜石のように深い漆黒。

 眼下に、雄大な蒼い惑星、地球。

 高度計の数値は、約240Km。


 つまり、これが、夢の宇宙旅行。

 極短時間、サブオービタルだとしても。


挿絵(By みてみん)


 試験飛行に成功、感じるのは安堵だけ。

 そりゃそうだ……気絶してたんだから。



 『 世界を救いに行きましょう 』



 泣きっ面の女神は、転生を薦めた。

 未来の地球で0歳児からの再出発。

 地球外生命体に軍事侵攻されてる。


 まさしく転生。

 だが、どうにも釈然としない……。



 現在、自分の置かれた状況を反芻していく――――



 荒廃した都市は崩れ落ちて高さを失い、悲風は遠く吹き渡っていく。

 その風音に混じり、蜂の羽音に似た、不吉な音が近付いて来ていた。


 レジスタンスの一員となった。

 顔かたちは勿論、バイタルサインまで把握された状態だ。

 センサーに符合する項目があれば問答無用で攻撃される。

 そんな物騒な機械が飛び回っている。


 身を隠すのに好都合な、比較的、大きな瓦礫の多い地域。

 周囲を見渡す。


 おあつらえ向きの隙間に潜り込んで背中を丸め、フィールドパーカーのフードを目深に被り直してから、両手を袖の中に入れて腕を組んだ。即座に動ける姿勢で、長期戦に備えて体だけは弛緩する。



 ウュィーーィン ビィィン ビィン……



 小型無人警戒機の耳障りなノイズが、大きくなってきた。

 神経を張り詰め、息を潜めて、頭上の異物をやり過ごす。



 ……と。



「行ってくれたか……」



 今日も、運が味方したらしい。

 そのまま緊張から解放された。


 空きっ腹の隙間時間ができた。

 LCDゲーム機を手に取った。

挿絵(By みてみん)


 家電量販店の廃墟で、これを発見した時は大興奮した。

 しばらく無心にモノクロ液晶を見詰める――――



 ジャ... ザザッ ザリィ!



 不意に耳障りな異音を捉えた。

 夕陽に染まるコンクリート壁、そこに影法師がひとつ。



「まぁだ生きてやがった」

「なんでもいい、食い物」

「ほらよ、今日の配給だ」



 連絡員の男は、苦笑いしつつ小さな紙袋を投げてくる。

 ガサガサ開くと、丸パンが2つ。

 ひとつ手に取って齧る。



「バレないで隠れるコツあんの?」

「案外、早く来たと思ったけどな」



 キーホルダーを指差して、「その、ピコピコ」と苦笑。

 くねくねっちの音か、と納得していると、首を傾げた。

 簡単に「20世紀の遺物」と説明する。



「そんな調子で、よくもまぁ生きてるもんだ」

「サウンド切らないと、さすがにバレバレか」



 オモチャで遊ぶこともできない。

 窮屈な時代だ。



異星人(エイリアン)の警戒網を出し抜く秘訣。是非とも伝授してほしいね」



 言いながら脱いだ帽子から、伸ばしっぱのクセ毛があふれる。

 腰掛けて、ペットボトルを手渡してきた。


 いつもなら長居は無用と立ち去っていく。



「珍しい、話するのか?」

「俺だって長生きしたい」



 誰だって長生きしたい。

 こんな御時世でも同じ。

 そんな攻略法があるならオレだって知りたい。



「見付かったけど、攻撃してこなかったんだよ」

「ハハハハッ、まさか!」

「根絶やしにしちゃあ困る、理由があるんだろ」



 男は薄く笑っていたが、三白眼を細く絞った。

 足元に這い寄ってくる、値踏みするような声。



「それも、前世でやったゲームの設定なのか?」

「あ、その話? これは違って、さっきの感想」



 まだ、ゲームに緻密な世界観なんて大仰なものは無い。

 どっかで観た、なんかのアニメの、パクリっぽい設定。

 そんな時代だった。


 それでも、ここは。

 あの時に肌で感じた、あの世界に似ていると今も思う。



「あの話、信じてるのか?」



 問い掛けに、苛立った顔をした。



「前世の記憶ぅ? そんな与太話、信じるわけ無ぇだろ。ファンタジックな展開を期待したってのも意味不明だよ!」

「そういうアニメとか多かったし」



 しわくちゃの紙袋を指差した。



「信じちゃいねぇけど。似たような噂を耳にした」

「オールドゲームに似てるって奴、他にもいる?」

「いねぇよ! 説明は難しいけどな、行けば解る」



 袋の中に、パンがひとつ。

 簡単な手描き地図、アジトを示す記号。


 ここに行けば、なにかが解る……



 場所は壊れた駅の斜め向かい。

 その駅名を見て、ハッとした。

 それは、ある会社が入っていたビルだ。



「ここ? ……なんとも運命的な場所に」

「知ってんなら話は早い、案内は不要?」

「でも、随分、長いこと行ってないから」



 あらためて、地図を見る。


 前世で、子供の頃に熱中したビデオゲーム。

 そのメーカーの就職試験で一度だけ行った。

 たったの一度きりだった。


 結果は、お察しください。



「にしても。特別の便宜だ」

「アンタ言ったろ? 前世じゃ子供は学校でお勉強」

「オレそんなこと言った?」

「証拠を探した、これだろ」



 細長い袋、これが、学校?

 不思議に思い開いてみる。


 樹脂製の縦笛が出てきた。



「おんなのこの縦笛を、学校から盗んできたのか?」



 日没に冷えた建造物が崩れゆく、ガラガラと乾いた音。それに混ざって響いた、自分の笑い声。それを押し止めようと慌てた男が、さらに笑いを誘った



「お前、あんまり学校向きじゃないと思うけどな?」

「そりゃどういう意味だ!」



 むきになって怒った不満顔に、思わず吹き出した。

 同世代の男と、くだらない世間話、久々の感覚だ。


 連絡員は「ったく」と、あきれ顔で立ち上がった。



「日時は、追って連絡する」



 転生して来たのは、完全なディストピア。

 侵略者の殺戮兵器が跳梁跋扈する、未来。


 まるで前世で熱中していたゲームの舞台。


 横スクロールシューティングゲームの世界だ――――



「待てよ」

「なんだ」

「あれ、嘘なんだ」

「前世の話が?!」


 軽く首を横へ振った。


「本当は勉強してない、ゲームばっかりやってた」

「そりゃ……アンタの場合ってハナシだろうが!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 未来の地球に転生したら、ディストピア。 軽快に会話してますが過酷です。 女の子のリコーダーを盗むのはダメですね笑 ゲーム会社でバイオハザード的なことが起こってそうです。 起こる前の世界で事…
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