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藤野のはなし  作者: 藤野彩月
第1章
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ストーカーした はなし【創作話】

 私とあの人の出会いは神様が予め用意していた、運命の贈り物だったんです。

初めて出会った瞬間に私の頭の中で「祝福の鐘」が響いていました。そんな経験をしたことのない人達には私を変人と見なすでしょう。ですが今まで私、様々な恋愛をしてきましたが、あんな事は初めてでした。だから、今まで私が無理にあの人に好意を伝えようと行動を起こすことを控えていたのは、私達はいちいちそんなことしなくったっていずれは必ず結ばれると信じていたから…いえ、今でも信じています。


 なのに、いつまで経っても神様は私達を結ばせようとしてくれない。そりゃもちろん簡単に幸せになれるわけない、むしろ私達に様々な試練をお与えになるってことは重々承知しております。だけど相手は一向に私の気持ちに気づいてくれない。それどころかだんだん離れていくばかり。きっと照れ臭かったのでしょう。だから私は相手の事をきちんと思いやってあの手この手でけしかけてみたのです。やっぱり行動に移さない限り1mmの獲得も不可能ですから。だけど、どんなにアプローチしてみても「また今度」とか「ちょっと都合が合わなくて」と逃げていました。容姿と性格の点で私があまりにも雲の上の存在だから、よほど気おくれしたものと見えます。雲の上の存在からこんなにも愛されているのだから素直に受け取ったらいいのに。これは決して私の自意識過剰なんかではなく、本当に、他人から「あなたはまるで清楚な花のようですね。」とか「年齢の割に落ち着き払っていますね。」と言うお褒めの言葉を頂いたからなのです。でも、一番この言葉を言ってほしい人からは一度も言われたことがありません。きっと当たり前の事過ぎて、今更自分が言うまでもないと思ってのことでしょう。


 この迷宮のような恋をどうしたら実らせることができるのか、幾人もの知り合いやネット上に相談したことがあります。ところがまぁ、馬の耳に念仏とはこのことで誰もかれも「あの人を本当に愛しているなら身を引くべきだ」だの「別の人に切り替えなさい」だの凡人らしい月並みな返答ばかりでうんざりしました。他人の嫉妬と言うのは恐ろしいもので、自分がロマンチックで素敵な恋ができないからと言って、別の誰かが心から好きな人と恋愛を楽しんでいると知るや罵詈雑言の総攻撃を仕掛けてくるものです。先日も知り合いからこう言われました。「あんた、今のままその人に執着し続けてたら、捕まるよ。」とね。ですが私は執着なんてしておりません。昼間はちゃんと一人の大人として仕事をしております。それが終わり、夜になって自宅へ帰った後は私の自由です。私はその自由な時間を誰から指示されるわけではなくあの人に捧げます。愛するあの人へのこまめな連絡は一日たりとも欠かしたことはありません。特に眠れない夜はあの人の声が聞きたいあまりになんどもあの人の電話を鳴らしました。あの人から一度も返事をもらったことはありませんが、私はそんなこと目当てにあの人に連絡しているのではないのです。全てはあの人の運命の相手としての無償の愛からです。馬鹿げた恋愛How To本に書いてあるような事を鵜吞みにしてしまっては、この世から愛なんてものはなくなってしまいます。真面目にそう思います。


 ところが、ある時になって連絡が取れない状態になってしまいました。直接会って理由を聞こうとしたら、あの人は私と目を合わすこともなくどこかへ逃げて行ってしまいました。私は「これはただ事ではないぞ。」と余計心配になりました。あの人に何らかの脅しをかけて私達の関係を引き裂こうとしている悪い奴がいるのだな、と。その時から思い切ってあの人の家へ毎日訪ねてあげようと決心しました。私のこの聖断に文句をつける連中は思う存分言わせておけばいい。あんな暇を持て余す連中に一体何ができるって言うのです?


 その日から毎夜私はあの人の家のドアをノックしました。本当は前もって連絡しておきたかったのですが、既に疑心暗鬼の塊となってしまったあの人は私からの連絡まで拒否してしまいました。心当たりなら確かにあります。あの人を日々悩ますAさんやBさんにCさん…この人達のせいに決まっています。あの人は弱いんです。だから私が絶えず気にかけてあげないとダメなんです。でも今はあの人の目の前は曇りに曇っているので、僅かな光さえも見失っているんです。


 実は今日、会えなかったのであの人の家に昼過ぎに行ってみました。するとどうでしょう。数人の警察官があの人の家の周りをうろうろしているのが見えました。すると玄関先に憔悴しきったあの人が見えました。ぞっとしました。あの人は何か疑いをかけられていて、こうして警察に追い詰められていると思うと気が気じゃなくなって、ここで夜まで様子を見ようと決めました。ちょっと離れた場所へ行って会社に半休の連絡をしようとしたら、急にあの人は私の方を指さして支離滅裂な事を叫びました。なんてかわいそうな人!!すぐに抱きしめてあの人を苦しみから守ってあげたい。警察官はすぐに私の周りを取り囲みましたが、潔白を証明したためすぐに解放されました。


 このままではあの人は壊れてしまう。いやもう壊れかけている!


 そこで私はすぐにあの人の家に入ろうとしたのですが、警察官の一人から危ないからやめておけと強く止められて叶いませんでした。なので仕方なく帰宅しました。


 でも今、夜も更けて、やっぱり心配なのでこうしてあの人の家に向かっているところです。

 

 おや、既に誰かがあの人の玄関先にいますね。誰でしょうか?


 何なんですか?私のマネしてドアをノックして、今日に限ってすぐに入れてもらえて…

 私の時はどんなに粘ってもほったらかしだったのに…ひどい人!!

 あなたをこの世の誰よりも想っているのはこの私だけなのに!!!

 あなたが苦しんでいるから私は寄り添ってあげようとしているのに!!!

 ひどい、ひどい、ひどい…!!!


 ※※※

 語り手の怒りはまもなくおさまった。

 なぜなら、玄関のドアの内側に多量の血しぶきが上がったのが外からでもわかったからだ。

 語り手の顔は満面の笑みが浮かんでいた。そしてこう言った。

 「ほら言ったでしょう?やっぱり私達は誰にも断ち切れない赤い糸でつながっているのですよ。これからもまた、私がそばにいてあげないと。あの人の身元引受人はどうやったらなれますかねぇ?」

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