ネズミ、別のネコと出合う。
トルクゥは安易に武器を預けた自分の愚かさを嘆いた、だからと言って武器を渡さなければこの雨に打たれ続けられてしまう、下手をすればそれが原因で病を患うかもしれない自分を思い、少し憂鬱になる。結局のところ自分には選択肢なんて無かったのだ。
「この雨で体を冷やしたみたいですね、お茶を飲みますか? わたしが淹れたので良ければ」そう言ってティーセットを折りたたみ式のテーブルに広げる魔術師は、フードを被りながら器用にお茶の用意をする。
「あの、フードを被ったままでお茶を淹れるのは何かと危険では?」トルクゥがそう言うと、魔術師はぴたりと動きを止めて。
「これは失礼したお客人、ここの所フードを取るのは眠る時位だったので忘れていました」そう言って魔術師はフードを取った。
トルクゥは息を呑む、声の高さから女性だとは思っていたがここまでの美女だとは思っていなかったからだ。
年齢は二十代前後で整った顔にプラチナブロンドの髪と、薄い茶色というより黄色と言った方がいい瞳が、神秘的な美しさをさらに際立たせている。
だがなぜだろう。そう何かが彼女の女性的な魅力を妨害していた、何かが足りない? いや、何かが余計で魅力が性欲に繋がらない。
「どうぞ」そうアルテアは言って白磁のティーカップをトルクゥの前におき、同じポットから淹れたお茶の入ったティーカップを口に運ぶ。
トルクゥもティーカップを口に運ぶ、そしてアルテアと呼ばれていたこの魔術師の喉の動きを見て、確かに飲み込んだのを確かめてからお茶をすすった。
「フフッ」といたずらっ子のように笑うと。
「用心深いのですね」とトルクゥを面白そうに見るアルテア。
「…失礼いたしました」トルクゥは素直に謝る、ばれてしまったのでは用心した意味がない。いや、本当に失礼このうえない行為だからだ。
「いやいや、謝る必要などありません。最後に自分の命を守れるのは用心深い人間ですから」
アルテアはそう言ってトルクゥに満面の笑みを浮かべる。
つまりどういう反応を見せてもアルテアの手の上の話しということだったらしい。みずから道化の真似事してしまった事に気づいて恥ずかしいトルクゥは、慌てるように馬車の中を見る、そして思う。外装も立派だった馬車だったが、内装も豪華だなと。
内装は白を基本色としていて、そこに置かれている小さくまとめられた調度品のおかげで、一人なら気持ちよく休息できる、暗幕のかかった鳥籠の中にはフクロウでもいるのだろう。そして疑問に思う、これほどの商隊でこんなところに何をするつもりなのだろうかと。
「俺の名前はトルクゥと言いますが、あなたは何のためにここへ来たのでしょうか」
「そう言えばまだ自己紹介をしていませんでしたね、わたしはアルテア。魔王をしています」
次回に続く。