ネズミ、・・と出合う。
「アルテア様、馬車から出てはなりません。風邪でもひかれたら私の責任になるのですよ!」
ゼーダはこの人物の心配をしているのか、それとも自分の心配をしているのか分からない事を、アルテアという名前の百七十セチ・メール(約百七十センチメートル)を少しこえる位の身長を持つこの人物に言う。
「わたしの心配はしてくれてないのかな?」雨に濡れないようにローブのフードを深く被ったその人物は、なぜか楽しそうにゼーダに話しかける。
「ですから、このようにご自分の馬車から出ないようにとお願いしているではありませんか。ああ、こんなにローブを濡らしてしまって! 皆の物から怒られるのは私なのですよ?」そうゼーダは言うと、彼とほぼ同じくらいの身長のアルテアの肩に付いた雨粒を汚れた手袋を取り、素手で払う。
「だってみんなは馬車の修理で忙しそうに働いて、わたし一人でお茶を飲んでいるのが暇でしょうがないんです」そういうアルテアと言う人物にゼーダはため息を付き、トルクゥの顔を見てとても言いにくそうにしていたが。アルテアと呼ばれている人物が車輪を付け替えている馬車の方へ視線を向けると、大慌てでトルクゥにこう言った。
「旅の方、どうか我らの主の話し相手をしてもらえませんか?」
結局トルクゥは金貨三枚でこの商隊の主、アルテアの話し相手をすることになった。たった金貨三枚だがそれでも、この雨の中でいつ終わるかわからない馬車の修理を待つよりは天と地程の差があったからだ。
「あ、武器のたぐいは私が預かります」ゼーダはトルクゥにそう告げる、まあ当然の事だとトルクゥは思う、もしトルクゥがあの人物に危害を加えれば、バツを受けるのはこのゼーダと言う老人と呼ばれてもいい年の男性であり、そして自分は生きてはいられない。
トルクゥはハンドアックスとナイフを預ける。
「こちらの馬車でご歓談を」トルクゥは驚くとともに、あの人物は相当の資産家なんだろうなと思う。それ程の大きさの六頭立ての馬車だった。馬車は細かい彫刻が施されてはいたが、決して成金趣味には見えない落ち着いた物だった。側面には両開きのドアがありそのドアまでは地面から結構な高さがある。ではどう昇るかといえば馬車には小さな階段があった。
トルクゥがノックをすると「どうぞお入りください」と中から声がすると両開きのドアが自動で開く。それだけでもトルクゥにとって驚きだが、ドアから見えるだけでもすごい調度品がある。
トルクゥは入るのを躊躇していると「どうかしましたか?」と中から入るのを促す声が聞こえてくる、思い切ってトルクゥが馬車の中へ飛び込むと、トルクゥの着ている物から一瞬で水分が消えてしまう。
「どうぞ座ってください」フードを被った人物はクスクスと笑うが、トルクゥは笑えない。
間違いない、この人物は『魔術師』だと確信したからだ。
21話と自分で言っておきながら、7話も使ってしまった。
チョット反省。