レクターレ王国軍、悪運。
ロエル・ハス少佐と、アルドル・バース少佐の食料強奪部隊は、何とか森の中を進んでいた。
プレートアーマーを着ていないのが不安であったが、そんなモノを付けて高低差のある森の中を進むのは、大馬鹿者のする事だった。
この間、何人かの迷子が出ているが、ここは【陸軍】の演習場なので『まあ、この陽気だし死ぬ事はあるまい』と捨てて置かれていた。
「今、我々はどの辺りにいるのだ?」アルドル・バース少佐は、迷う事無く前進し続けるロエル・ハス少佐に。今日何度目になるか分からない問いをする。
「大丈夫ですって私は事、方向だけはたとえ星が見えない場所でも間違いません」ロエル・ハスは明るい声でそう言ったが、この暗い森の中では顔の表情までは分からない。
すでに太陽は西へ沈んでいるので、辺りはどこが北でどっちが南かもアルドル・バース少佐には解らない。
(ついていくしか無いか)そう心の中で決めた時、前方斜め右の方向から小さく人の声らしい叫び声が聞こえた。
「マルド少佐ですね、元気そうで良かった」ロエル・ハス少佐は、そう明るい声で言う。
「そうか? 私には悲壮な声に聞こえるが?」アルドル・バース少佐は、その大雑把なパーツ配置をされた用な顔をしかめるが。その低い声を無理に低く抑えた為に、地の底からの唸り声のように回りの【騎士】達には聞こえる。
「これで我々の進む方向はハッキリとしました、前方左前の方です」ロエル・ハス少佐の声は、楽しそうに弾んでいる。
「…まあ、そうなるか」バース少佐の低く抑えられた声が肯定する。
アッガス・マルド少佐と、その配下の【騎士】達はまだ希望を失っていなかった。
「ハハハッその様な弱々しい弓矢で、私の鎧は貫けんぞ!」アッガス・マルド少佐の声が、まさに雨音のように地面を叩く弓矢の音の中で響く。
だが現実は厳しい【騎兵隊】の機動力である馬達は、すでに逃げ去ってしまい【騎士】達は半ば地面にうずくまる様にして、盾で矢の雨を逸らすのが限界だった。
『何とかしないと、何とか──うん?』アッガス・マルド少佐がフッと気がつく、あれ程雨のように放たれていた弓矢が、少なくなって来ている?
罠? いや、どちらだとしても今しか無い!
「全隊、私に続けぇ!」少佐は立ち上がると、杭の間を駆け抜けて前進する!
マルド少佐の悪運はまだ続いていた。杭の針山、その先にある門のかんぬきを赤軍の兵隊はかけ忘れていたのだ!
アッガス・マルド少佐と、八十五人の【騎兵隊】の突撃が成功してしまった瞬間だった。
アッガス・マルド少佐には手こずりました。勝手に話を進めて行くのですから。
まぁ、楽しかったのは事実ですが。
それでは、明日にまた会いましょう。




