レクターレ王国軍、三人の少佐。
アッガス・マルド少佐はみずから率いる第一砦【騎兵隊】の速度を全力疾走から、早足まで速度を落としていた。
無理もない、いくら頑丈に品種改良された軍馬でも。二十キ・ラム(約二十キログラム)の鎧をつけた大の男を乗せて、長時間全力では走れない。
初夏の日差しを放つ太陽も、あと数刻で“母なる海”に沈む。
食事がしたくてもこの辺りには村も無い。一応二日分の干し肉を持っているが、出来ればこの固くてしょっぱいモノは口にしたくない。
と言ってもあれだけの大見得をきってこんな所まで来たのだ、何かの成果を上げなくては帰る事は出来ない。
【東側の後方から馬の集団が接近して来ます】兜を取って周囲の警戒をしていた【騎士】が、そう【念話】で警告をする。
【総員戦闘準備!】アッガス・マルドがそう【念話】で言って、その場で馬を旋回させる。だがそこは馬車の通るあぜ道の上、それもこの気温と日光を浴びて背の高い雑草が生えてしまって、中々上手く旋回させられない。
【待ってください、相手も【騎兵隊】友軍です】第二報が頭で響く。
先にそれを言え! アッガス・マルド少佐は叫び声を上げたい気分で、面当てを上げる。
兜の中に籠もった湿り気の多い空気が風に飛ばされる。マルド少佐はその新鮮な空気を肺の中に送る様に深呼吸をする。ウム、少し気分が落ち着く。
相手の方はすでにこちらに気付いていたらしく、兜を取りランスを天に向けていた。
あのサーコートの紋章は確か、ハス家と、バース家のモノ。ハス家からは、ロエル・ハス少佐が第三砦に、そしてバース家からはアルドル・バース少佐が第五砦にそれぞれ“副官”として配置されていた。──つまり、俺と一緒か!
アッガス・マルド少佐はその兜を取る。短く切られた黒い頭髪は、兜に籠もった湿気でぐっしょりと濡れていた。
ロエル・ハス少佐と、アルドル・バース少佐の二人が満面の笑みを浮かべて、軍馬に乗った集団を引き連れて来る。
マルド少佐の顔にも思わず笑みが咲く、その気性からは想像出来ない程整った顔立ちからか。彼の引き出しには様々な女性が手ずから刺繡をしたハンカチで溢れている。
ロエル・ハス少佐もその年齢からは考えづらいくらい若々しく見えて、女性から絶大な人気を誇っている。
対してアルドル・バース少佐には浮いた噂は聞かない。そのゴツゴツとした顔故だろうか、だが普段の彼はとても温厚な性格をしており。三人の中唯一の既婚者だった。
三人は満面の笑みを浮かべて肩をたたき合って再開を喜び、同じ事を聞いた。
「「「まともな食べ物を持っているか?」」」
ちょっとコメディーっぽくなりましたが、三人とも真剣です。
戦争ではストレスの発散出来るモノが、少ないのですよ。
その1つが、食べ物です(他には寝る事と、ちょっとしたギャンブル)
明日の61話でストックが切れてしまうので、10日~20日ほど投稿が空きます。
待っていてくれると嬉しいです。
では。




