レクターレ王国軍、イノシシと野犬。
レイガス・サロー少佐は、自分の馬を右方向へ進むように操作する。そうすると馬達は左側を晒してしまうが【弓騎兵】にはその体制こそが戦闘状態の証だった。
ショートボウ程の長さでありながら、ロングボウ並みの威力を発揮するコンポジットボウを左手に持ち、右手に持つ矢をコンポジットボウの弦に乗せ思いっきり引く。
普通の木の弓では折れてしまい兼ねない程に、コンポジットボウはその形を歪ませる。
レイガス・サロー達【弓騎兵】が弦から指を放す。
数十本の弓矢が風切り音を唸らせて、アッガス・マルド達【騎兵隊】に襲いかかる。
四頭の【騎士】を乗せる馬が脱落し、その速度を落とす。だが残りの【騎士】はお構いなしで、ランスを構えて突っ込んで来る。
「命中率がまだ低いなぁ」レイガス・サロー少佐がつぶやく。まだまだ南の本家には敵わない、そう思うが今はそれどころでは無い。サロー少佐は【念話】で部下に【退却】と短い命令を出した。
ランスを構えた重装備の【騎兵隊】に突撃されたら【弓騎兵】に出来る事は、さっさと逃げ去る事しか無い。
「卑怯者」とアッガス・マルド少佐辺りの【騎士】は言いかねないが【弓騎兵】は【騎兵隊】とは根本的に違う。
イノシシの相手は、同じイノシシがすればいいし。野犬のような【弓騎兵】の相手は、同じ【弓騎兵】もしくは【弓兵】の方が相性的に良い。
それに、とレイガス・サロー少佐はひねくれた笑みを浮かべて思う。
我々は言わば餌だ。今頃は第三砦と、第五砦にもサロー少佐の腹心の部下がイノシシ達を呼び寄せる為に、同じような攻撃をしているはずだろう。
ショータイムはこれからだった。
「防衛の上手な上司と、攻撃的な副官の組み合わせは良い判断だと思うのですが。巧く行かないものですね」アルテア=アトラスはため息混じりに、そう口に出す。
「こういう物です。巧く行ったときと、行かないときの差は殆んど運任せです」そう参謀達の一人がアルテアに進言する。
この演習を判定しているテントの中が、騒がしくなって来た。
ある参謀は淡々と数字と損害率の表を眺め、ある参謀は大声を張り上げる。
「赤軍の動きが読みづらい!」参謀の一人がそう叫ぶ。
「パトリック・アース少将が普段とはまったく違う活動をしている!」そう指摘する参謀。
「誰だ、あの少将に進言しているのは?」参謀達が口々にそう言う。
「……」陸軍大将ゴードン・ウルスラムは、メモ帳にペンを走書きさせる人物を見る。
「? どうかしましたか?」第一王位継承者はキョトンと陸軍大将を見る。
これ以上、登場人物は増えないと思っている貴方。
甘い! まだ『第三軍』の登場人物がいるのです!!
では次回59話で会いましょう。




