ネズミ、ネコ退治に出発する。
それからしばらくは、トルクゥはおとなしかった。
この村の人々と何でも行った。畑を耕すのにも率先して参加し邪魔な木を切り倒し、木の根の掘り起こしも村の男連中と一緒におこない汗を流した。牛の乳搾りにも参加するし誰もが嫌がるニワトリの〆も、腕を傷だらけにして行なった。
一ヶ月もたつ頃にはすっかり村になじんで、ふつうに宴会にも参加させてもらえるようになっていた。もちろんルネとの夜の関係も続いていた。
ただ普通の村人とは違うのは朝早くと夕方に、シールドとハンドアックスを持っての戦いの訓練を怠らない所だった。
そんなある日の夜、隣村に住んでいたボルチという男が走り込んで来た。
ボルチは「俺たちの村が、魔王エルドルに襲われたぁ!」と言って気絶してしまう。
結局ボルチは一日ほど寝込んだ後に詳しく話し始める。
「俺たちの村が魔王エルドルに襲われた!」ベッドから上半身を起こし、パンとソーセージを口の中に押し込めながらボルチは大声で喋る。
「それはボルチ、お前がこの村に入った時に聞いた」村長はそう言ってもっと詳しく話せと促した。
ボルチはバツの悪そうな顔をして「それじゃあ俺の見た事を…」と言って話し出す。
今から四日前、森の中から百匹以上のゴブリンが村に押し寄せて来た事。
急いで村の門が閉じられて持久戦の体制を取った事。
だがゴブリン共は【土泳ぎ】の魔法で村の下から襲って来た事。
そしてゴブリン共は井戸の中に毒を流し込んだ為に持久戦が出来なくなった事。
村長は仕方なく村を捨てて戦う覚悟を決めた事。
「そのあとは、ああ、口に出して言えないくらいに酷い戦いだった。俺たちの村は負けて逃げられる者は逃げて他の村に助けてもらえ。そう村長は言って力の強いやつらを集めてゴブリン共に突撃していった」ボルチの声は最後のほうは涙声になっていた。
「お、俺も戦いたいと村長に言ったが、お前は足が速いから近くの村へ急いで走り、お前の後につづく女と子どもを助けてもらえるように交渉しろ。と言われて…、そ、そうだ! 俺の後に誰か来たか?」ボルチはこの村の村長にあわてて聞く、この村の村長は黙っていた。
「……、そ、そんな……」
ボルチは声を殺して泣いた。
その夜、ルネはいつものようにトルクゥの部屋をノックするが応答は無い。
「トルクゥ様?」だが返事は帰って来ない。
「開けますよ?」そう言ってルネは扉を開ける。案の定、部屋の中には誰もいなかった。
テーブルの上に何か書かれた紙がある、その紙を見た瞬間ルネは父親の元へ走り出す。
紙には“魔王を退治して来る”とだけ書かれていた。
もうお分かりかも知れませんが、このお話ではアルテアは主人公ではありません。
どのように話に絡んでくるかは、あと、2話必要です。
では。