レクターレ王国軍、アルテア=アトラス、ウルリス少佐と出会う。
アルテア=アトラス・アウグストスが、父にして王であるロスコー・アウグストスに呼ばれたのは。スル・ガーゴン氏からの勉強の最中、少し呆然としていた後、何かを熱心に考え初めている途中で、であった。
侍従長のレーン・コス女史は、この十年でアルテア=アトラスが数回しか自分に見せた事の無い顔をした後、深く深呼吸をすると。
「顔を洗いたいので、しばらく待って頂けますか」と言って大きく伸びをした後に、浴室へと入って行くのを見送った。
「…何をお話したのですか?」レーン・コス女史は、キツイ視線をスル・ガーゴン氏に向けると、ガーゴン氏はこう言って右肩を揉む。
「私は私の仕事を行っただけです。──もっとも、あのお年では解決策など浮かばないでしょうが」レーン・コス女史は、スル・ガーゴン氏をにらみつける。
スル・ガーゴンは思う、私も本当に意地が悪いと。
だが、と思いなおす。いつかは誰かが教えてあげなければならない事だと、さもなければあの子も【暴君】になり兼ねない。杞憂かもしれないが、いやいやどう転ぶかなんて分からない。何故なら十歳でこんな事を教えている事自体がそもそもおかしいのだ。
そう十歳! この年で侵略戦争の話をしなければならない事がおかしい。
私はただ“一般常識”を教えるために家庭教師になったはず、なのに何故私がもっとも得意にしている“戦争”の授業を教えなければならないのか!
スル・ガーゴン。──いや、今はもう無くなったある国で参謀本部の部長をしていた“名無し”の男は。つくづく自分は業が深いと思った。
──十五分後──
「コンコンコン」ロスコー・アウグストス王のいる執務室の扉が、三回ノックされる。
「入るがよい」アウグストス王がそう言うと、静かに扉はレーン・コス侍従長の手で開かれて。第二次成長期に入りゆっくりと、だが確実に『少女化』の方向にある自分の子供が入って来る。
「アトラス=アルテア、ただいま参りました」男性名である『アトラス』を前に名乗るその子供っぽさと、男の子の服装に。肩の辺りで切り揃えられたそのプラチナブロンドの髪、そしてそのまだ完全に女性と呼べない体のラインとのミスマッチさと相まって。何処か『倒錯的』な“美”をアルテアは醸し出していた。
「どうしたのだ、時間に遅れるなどおまえらしくも無い」ロスコー王はアルテアにそう聞くと、アルテア=アトラスはちょっと不機嫌そうにして。
「顔を洗っていました」と、答えだけを簡潔に言うと、父の前で立っている女性を見て。
「この女性士官はどなたですか、父上」と、聞いて来る。
第43話でした。──まだ10歳でもう43話! ここまで長くなるとは。
しかもまだまだ終わる気配が無い! どうなるのでしょう?
では、明日44話で会いましょう。




