勇者の死
「…これで終わったのですね…」黒いドレスを着た、ローサーク王国王女アニシア・ローサークは二つの死体を見てつぶやく。
「はい、これで終わりです。よほどの事が無い限りは」右手のバデレールについた血を振り払うと、魔王アルテアは左右二本のごつい小刀を鞘に納める。
すると大扉の向こうからバタバタという足音を立てて一人の男がほこりだらけで入って来る。
「待て待てえ、この宮廷魔術師ドーグラ。姫様とお師匠様の助太刀に会い参事、──おや?」
そう言って入って来たドーグラは、状況をすぐに飲み込むと大理石の床に座り込む。
「何です、もう終わった後だったのですか? ならばこんなに急ぐのではなかった」と一人愚痴をはくその姿を見て王女と魔王は笑みを浮かべて、ドーグラに何か声をかけようとすると、大広間から外へと続いているもう一つの大扉が勢いよく開かれた。
「勇者ログナールと勇者アーグ、お前達二人の行って来た罪の数々すべて明らかになったぞ。今この場で打ち首にして。──あれ?」国王グレイバルが近衛兵を引き連れて入って来た時には、すでに二人の勇者はこと切れていた。
魔術師ドーグラは、片膝を付けて頭を下げる。王女アニシアはスカートの裾を広げて、かるく会釈をする。魔王アルテアだけは何もしなかった、当たり前だ。魔王はこの中で一番強い、例え千の兵隊を引き連れていても、魔王アルテアに頭を下げさせるのは不可能だろう。
「何だ、もう終わっていたのか。…つまらぬ」国王グレイバルがつぶやく。
「若干遅かったようですね、こういう事は良くある事です」アルテアは肩をすくめて見せる。
「──で、この二人の勇者。この後どうします?」アルテアはいたずらっぽく微笑むと、国王グレイバルは鼻息も荒く宣言する。
「決まっておる。今後二十年間誰も『勇者』を名乗れないぐらいに、その“称号”を貶めてくれるわ!」
つまりこの四人は最初からグルだったのだ。最初に気づいたのは、焦げたドラゴンの死骸を見張っていた兵隊だった。何か光る指輪を見つけてそれを上司に報告、上司はその指輪が王族だけに贈られる由緒正しいモノである事を確認して。さらに上の上司に報告、遂には近衛兵の諜報部までその指輪の所有者さがしをして。今生きているとされる王族の中で、唯一安否の確認できない人物、現国王の長男に行き着いた。
国王グレイバルは大いに怒ったが、証拠が無い。そこで宮廷魔術師ドーグラは今回の三文芝居を考えて、国外で唯一心から信頼できる人物に魔王役を依頼した。(アルテアは元々魔王なのだから、これ以上の当たり役は居ない)王女誘拐と見せかけて、二人の勇者がいない隙に証拠を集めたのだ。
こうして二人の勇者をかたった、ただの詐欺師の二人組は。その罪状が公表されローサーク王国では本当にこの後二十年間、誰も恥ずかしくて『勇者』を名乗る者は現れなかったという話だった。
これで終わりなのですが……。なぁんかアルテアが人柄が良すぎる。
アルテアの過去のお話でも考えて見ますか。
……、でもそんな暗いお話、誰が読むんですかねぇ。




