二つの首
「私には腹違いの兄がおりました」黒いドレスを着たローサーク王国王女、アニシア・ローサークが二人の『勇者』を名乗る青年達を冷たい視線でにらむ。
「母親は違えども、私にとって尊敬できる兄でした。頭が良く誰に対しても優しく接して、そして魔術の才能あふれる。…私のお兄ちゃん」王女アニシアの目に涙が光る。
「ローサーク一族として王宮に居ると、義母である王妃と私に迷惑をかけてしまう。そう言って自分がいたこと全てを消して『冒険者』の道へと進んだお兄ちゃんを、お前達二人はあっさりと。まるで野良犬の処分をする様に殺した! その行為万死に値する!!」アニシア王女の怒気は、それだけでログナールとアーグを切り裂けるかの様だった。
「ここまでか…」アーグは自分の持っているロングソードを床に投げようとするが。
「アーグ! まだだ、まだ終わっていない!!」ログナールは相棒を鼓舞するかのように叫ぶと、こう続けた。
「今ここにいるのは、十六歳の小娘とひ弱な魔術師の二人だけだ。この二人を殺せばまだ俺たちは他の国で遊んで暮らせる!!」そう言ってログナールはロングソードを構える。
「話は、そうだな。ローサーク王国王女アニシアと魔王アトラスの禁断の恋と、二人の心中て言うのはどうだ?」ログナールは即興でそんな話をでっち上げる。
「なんと、今この状況からまだ逃げ出す公算を考えるとは。お前達の心臓はどれだけ毛深いのだ?」『魔王』アトラスは思わず地声でそう言った。その声は少しハスキーではあったが男の声というには明らかに……。
『魔王』アトラスはその深く被ったフードをとる。そのキラキラと月の光に輝くブロンドの髪は、流れるように胸までを覆い。薄い茶色というよりも黄色いといった方が良い瞳は、二人の勇者を冷ややかに見つめる。
「お初にお目にかかる。わたしの名はアルテア・アトラウスという、すぐに忘れてかまわない。何故ならお前達の命は今この場で消え去るのだから」
そう言った瞬間アルテアの姿は消え『勇者』ログナールの横にいた『勇者』アーグの首が落ちる。頭を失くし崩れるように倒れるアーグの横にいたログナールが、その一撃をロングソードで受け止めたのは、幸運だったからだった。
金属どうしがこすれる嫌な音が立つ。アルテアの持つ武器はロングソードの二倍近い身幅を持ちながら、ロングソードの三分の二ほどの長さしか無い。バデレールという片刃の、相手をたたき切るのに適した剣だった。
ログナールはドッと背中に冷や汗をかく。まさに奇跡、たまたまロングソードを首の横に立てていただけ。だからアルテアが二刀使いだった事をログナールが知っていても、何かが変わるという事など無い。
左手に持っていたバデレールを止められたアルテアは、アーグを殺した右手のバデレールでログナールの頭を割った。ただそれだけ、こうして『二人の勇者』は死んだ。
残りは1話となりました。
まあ、エピローグみたいなモノですけど。




