ある魔術師
ある魔術師の話をしょう。
彼の母親はある男と相思相愛だったが、身分が低くてその男から身を引いた。男はその後、身分相応の女と結婚したが、彼女がすでに自分の子を身ごもっている事を知っていれば、男は決して彼女を放さなかっただろう。
いやそれどころか彼女のためにその地位さえ捨てていたかもしれない。事実、彼女が自分の子供を単身で育てている事を知った男は、涙を流したと聞く。
男はけっして結婚した女性を嫌ってはいなかった。愛していたのは事実だった、だが自分のためにあえて身を引いた女性が不憫でならず。結婚した女性に自分の不貞を語った。どのような罵声もうける覚悟をしていた男だったが、結婚した女性は。
「私を愛しているのは事実なのですね」と話した。男はあらゆる言葉で肯定をする。
「ならば、私もその女性を受け入れます。なぜなら私の体はもう私ひとりのものではないからです」そう言って愛おしく自分のおなかをさすった。
こうして結婚した女性は、夫の最初の女を。自分の子供の専属のメイドとして招き入れ、夫はこころから二人の女性を愛した。
最初の女性との子は男の子、結婚した女性との子は女の子だった。二人の子供たちは仲が良く、遊ぶ時も、勉強する時も一緒だった。
ある時から男の子は「ぼくは『冒険者』になる」と言い出して、三人の親は慌てて止めようとするが。男の子の意志はとても強く、そして『魔術師』の才能は魔法の先生の師匠からもお墨付きを得るものだった。
結局、年頃となった男の子は『冒険者』の道へと進んだ。
最初の仕事は、二人の『冒険者』からの依頼だった。
「近くの森の中で大きな魔物の死骸を見つけたんだが、どうもたちの悪い病気で死んだらしくてね。このままでは、この国にもあの魔物を死なせた病気が蔓延しかねない」そしてもう一人の『冒険者』がこう言う。
「だから今のうちに、その魔物の死骸を焼いてしまおうと思って。炎の使える『魔術師』を探していたんだ。どうだろう、手伝ってもらえないかな」
『魔術師』は承諾した。危険な仕事ではないだろうし、そして確かに病気で死んだ魔物を放置は出来ない。
だから最初、その魔物を見た時は驚いた。まさかドラゴンだったなんて。
そして『魔術師』は二人を尊敬した。ドラゴンの死骸ならどんな状態でも相当な値段で買ってくれるだろうに、あの二人は病気の蔓延を防ぐ事を考えた。なかなか出来る事じゃない。
ドラゴンの死骸を燃やすのは簡単では無い。だが『魔術師』はやり遂げた。
「終わりました」そう言ったとき、ロングソードが背中に突き立てられた。
魔術師の人生はこうして終わった。
あと5話、です。