不満
国王グレイバル・ローサークみずから率いる正規軍が王都を出発したのは、王女がさらわれてから三日後だったが。勇者ログナールと勇者アーグ、そして宮廷魔術師ドーグラはその二日前にはすでに王都を出ていた。
派手な事の大好きなログナールとアーグには不評だったが、この作戦の成功にはその様な些細な事は考慮に入れて貰えなかった。いや、それどころか三人には救城ローサークまでの道中では、誰一人とも会ってはならない。という王令まで課せられたのだ。
それまで『勇者』の名を利用して色々なおんなと好き勝手な事をして来た二人には、一日の禁欲でもつらいのに。王女を救うまでフカフカのベッドまで取り上げられたのだ、不満はたくさんあったが、下手に逆らえば首が飛ぶ。仕方なく二人は魔術師としては異常に体力のあるドーグラの案内で、道とさえ呼べない場所を進んで行った。
そして三日後、三人は昼間なら木々の隙間から城の立つ山の見える場所までやって来た。…あいにく今は夜だったが…。
「ここで休むとしましょう、もっとも城に近すぎるので火も付けられませんが」真っ暗な森の中でも元気なドーグラの声がそう告げる。
「……」対してログナールとアーグの疲労は限界に近かった。
酒もおんなも何にもなく道無き場所を三日間歩き続け、日が落ちれば問答無用で眠りにつかされる。自由意思さえ持てない過酷な日々。
しかもその最後の夜は、あたたかい食事さえ無いと来た。これで不満は頂点に達した、明日は大暴れしてやる! 魔王も、王も関係ない。特にドーグラ! このおいぼれは、どの様な目に合わせてから始末してやろうか!! 二人の暗い殺意を知らずにドーグラは、さっさと寝息を立てていた。
翌日、三人は山の反対側から高らかに鳴り響くラッパの音色と、男達の雄叫びを聞く。
「始まったようですな、ではわれらも参りましょう」そう言ってドーグラと、ログナールとアーグはうなずく。
相変わらず道など無いはずなのにかまわず前進するドーグラは、高い崖の前に立つと大きな一枚岩に手を当てて【──】と小さな声で呪文を唱える、すると岩は右側へと移動した。
ログナールとアーグは声も出ない、何故なら岩が動いたその場所には洞窟が伸びていたからだ。
「では、勇者様お二人が前衛を。私は後ろから魔法を飛ばします」そう言ってドーグラは杖に呪文をかける。ボウッと杖が光り出す。
それを見て二人は(ああ、忘れていた。こいつは『魔術師』だったっけ)と思った。そこまで二人は疲れていたのだった。
やっぱり、登場人物に思い入れが出来ないと、筆も進みません。
最初は面白いキャラクター達になる! と思ったんですがねえ。