──そして【亜神】となる──
「聞きましたかミリシア・ロメロ夫人。アノ出来損ないの半陰陽、アルテア・アトラウス・アウグストスが、レクターレから『ロメロの血族』を根絶やしにしようとしている事を」
その独特なしわがれた声でしゃべる【大司教】ブール・ベルが、【教会】の小さな裏庭でお茶を飲む。未亡人ミリシア・ロメロにそう告げると、ミリシアは鼻で笑った。
「あらまぁ、あの女男がやっと重い腰をあげましたか。でも、まあやっぱり半分は男ね。私の耳にも、入って来ていますがまだまだ甘いですわ」
「一族根絶やしが甘いとは、貴女の胆力はゴウリキですなぁ」
そう言ってブール・ベルは、彼独特の笑い声をあげる。
「あら、私本当にそう思っておりますわ。特に女を生かしておく何て、わきが甘いにも程があります」
そう言って彼女は、彼女独特の貞操感でしゃべる。
「女は胎がある限り幾らでも【子】を作れますわ。そう、幾らでもね! レクターレから、ロメロを消す? いまの代で? まあ、大変です事。でもロメロの女がいる限りその様な事は不可能ですわ! だって【赤ちゃん】は十代になれば、つがいがいる限り産まれてしまうのですから!」
ミリシア・ロメロ夫人は、上品な手つきでティーカップを口に運ぶと更にこう言った。
「確かに今期は私達ロメロの負け。残念ですわね、ですが次世代、いいえ次々世代に成れば、私達ロメロの──…いいえ。私達ロスホフ家は再構出来るでしょう! 何せ貴女の母親も元をただせばロスホフの家系なのですから!」
ミリシア・ロメロ夫人は、口もとを隠しながら笑った。──その頭が芝生に転がるまで。
ブール・ベル【大司教】が、椅子を蹴り倒して立ちあがった。いつの間にかティーセットを乗せていたテーブル席が、五人の人影に囲まれていた。
「何者か‼」
ブール・ベル【大司教】がガラガラ声で叫ぶ。
「何者かは解かって居ると思っていたのですが?」
【大司教】ブール・ベルはその人物を観察した。
ストレートプラチナブロンドの髪は、背中まで流れる様に伸ばされていた。
薄い茶色、と言うより黄色い瞳が、ブール・ベルを睨んでいる。
「き、貴様まさか!」
「ほとんど口を開いた事がありませんが、二、三回位は会った事が有ります。お久しぶりです。今日は友人の友人を助ける為に来ました」
ゆ、友人を助ける? 誰の事だ? いやそもそもどうやってここまで来た?
『久しいな、ブール・ベル。よもや我々の声を忘れた事はあるまい?』
【大司教】の背中に冷たい汗が流れる。
「貴女様は、まさか。まさか──」
【ネファー神】はにこやかにうなずく。だがその目は笑って居なかった。
「では、【大司教】永遠にさようなら」
そう言ってアルテアと、四柱の神々は空高く飛んで行く。
ブール・ベルはその場にへたり込んでしまった。
カタカタと、ティーセットが鳴る。イヤ、【教会】が、都市全体が揺れる。
「今度は何事だ!」
次の瞬間、都市バデンに震度七の大地震が襲った。
【大地の怒り】
【災害級魔法】の一つだった。
都市バデンの下を突然断層が動き、バデン全体が文字通り崩れて行く。
【大地の怒り】は、約二分間続いて。【教会】を、城壁を、そして城や建物全てを揺さぶり破壊し尽くした。
アルテア・アトラウスと、四柱の神々はその破壊を見つめていた。だが、破壊はまだこれからだった!
アルテアは海の方を見る。いつの間にか港から水が引いていた。
アルテアは更に遠くを見る。そこには白波が、時速百五十キ・メール(約百五十キロメートル)の速さで。津波として襲い掛かった!
ありとあらゆる物が津波に押されて、そして引っ張られて行く。
【大海の嘆き】
それがこの【災害級魔法】の名前だった。
【大地の怒り】でバデンは崩れ、【大海の嘆き】で発生した津波で、バデンは海の藻屑へと化した。
だが【人々】はしぶとかった。
『神よ』『神よ』『神よ』──…
生き残った【人々】が、【神に祈る】
『神よ』『神よ』『神よ』──…
【神に祈る人々は知らない、これこそが【神罰】だと言う事に】
『神よ』『神よ』『神よ』『神よ』『神よ』『神よ』──…
アルテア・アトラウスと、神々は天を見上げた。
天からは、多くの流れ星が降っていた。
『神よ』『神よ』『神よ』『神よ』『神よ』『神よ』『神よ』──…
アルテア・アトラウスは思う。
『次で、全てを終わらせる』
『神よ』『神よ』『神よ』『神よ』『神よ』『神よ』『神よ』『神よ』!
アルテア・アトラウスが、右手を上げて何かを掴んだ!
【天空の鉄槌!】それはアルテア・アトラウスが生涯で初めて唱えて見せた、【災害級魔法】だった。
『神よ』『神よ』『神よ』『神よ』『ああ神様! 何故我らを見捨てるか!』
音速の五倍の速さで、直径五メールの隕石が十五個。バデンに落下した!
『…────────────────────…』
【城塞都市バデン】は、この世界から消滅した。
ルルーアン国【海軍】所有戦艦、【ワイバーン号】の艦橋は、静まり返っていた。
「艦長、君は【亜神】と言う存在を知って居るかね?」
「【亜神】ですか? 聞いた事がありません。提督」
ルルーアン国【海軍提督】はうなずく。そして彼は艦長にこう言った。
「【亜神】とは、人間の肉体を持ちながら、【神】の領域に昇った者達の事だ」
艦長はギョッとして慌てて望遠鏡で、かつて【城塞都市バデン】の在った場所で、【神々】と共に【空中】を飛ぶ女性を見る。
その顔は美しく、気品に溢れていて。そして【神々しかった】
「この世界に【亜神】と呼ばれている存在は、四人確認されている。あの方は『五人目』と言う事になる。【神々と同格の人間】何と恐ろしい事か…──」
そう言って提督は口を閉じる。
──こうしてこの世界に五人目の【亜神】が誕生した──
約、半年前にこのオチを考え付いた時は、正直なところ悩みました。
明らかに『魔王』モノからかけ離れてしまっています。
でも、「まあいいか、どうせ人気の無い作品だし」と考えて、ここに載せました。
残りは多分後1話、「最後は、ドカン! とした話で行こう」と、言う事です。
では、次回にお会いしましょう。




