二人の勇者
「しっかし、あんな事って実際に起こるんだなぁ」寝間着に着替えた十代後半の年齢の、茶色い髪を持つがっしりとした体付きの色男『勇者』アーグは。同じく十代後半の年齢をした金色の髪を持つ相棒『勇者』ログナールの甘い顔に向かってそう言った。
「ああ、本当だぜ。いきなり魔王が登場してお姫様をさらうなんて、今時『吟遊詩人』の与太話だってもうちょっとオリジナリティーがある物だ」ログナールはそう辛辣に言った。
「あれはお前のシナリオか?」ログナールはそうアーグに問いただす。
「馬鹿を言え!」アーグは半ば怒ってその綺麗な顔を歪ませる。
「お姫様を誘拐する、まあ面白いし。たしかにカネをふんだくるにはいいシナリオだけど、さすがに魔王は出さないって」アーグはそう言い、こうつなげた。
「あのドラゴンの死骸を偶然見つけた時のように、俺ならもっと用意周到な…、おっと。これ以上はさすがにやばいな」アーグは手のひらで口を覆う。
そう彼らはドラゴン退治などしていない。
ドラゴンが出没する森の中で別の、もっと簡単に倒せる魔物を物色していて。偶然、おそらく病死したと思われるドラゴンの死骸を見つけたにすぎない、第一発見者だった。
直接ドラゴンを倒さなかったとは言え、ドラゴンの死骸の発見はそれだけでも大金を手に入れるチャンスだったが、彼ら二人は悪知恵を働かせるだけのあたまがあった。
彼らを知るギルドの職員や、ギルドメンバー達の何人かは。
「あのワカゾウ二人でドラゴンを倒した? 冗談じゃない!」という言葉もあったが。
二人の負ったやけどの酷い傷や、森林火災によって黒焦げになったドラゴンの死骸。そしてこんなにこの国にいたか。と言うくらいの『吟遊詩人』達のヒロイックな歌によって、懐疑的な意見はかき消され。いつの間にか二人は『勇者』となっていた。(ちなみに、やけどの傷は冒険者ギルドお抱えの『回復術士』の力によって、ほとんど目立たなくなる位に回復していた)
とにかく二人は、このローサーク王国に約百年ぶりに現れた『勇者』として扱われ。この三ヶ月間のあいだ『吟遊詩人』にその冒険譚を小出しに話して生活していたが。そのような生活が長続きする訳が無く、(そろそろこの国では限界かな?)と思っていた二人に。国王グレイバル・ローサークと、その王女アニシア・ローサーク。そしてその取り巻きの貴族諸侯が。
「是非二人の冒険譚を聞かせて欲しい」との話が飛び込んで来て、二人は。
(この国での最後のひと稼ぎ)と思って、城でのパーティーに参加したのだが。まさか王女の誘拐事件に出くわすとは思ってもいなかった。
「──で、どうするよ」アーグは、ログナールに向かって話す。
「まあまてって」そう言いってアーグの言葉を遮ったログナールの美しい顔には、ニヤニヤとした笑い顔が張り付いていた。
そう、二人は思っていた。これでまた『勇者』としてもうひと稼ぎ出来はしないかと。
まあ、そういう2人組です。