レクターレ動乱。初代会長、対、アンソニー・バレンツ。そして、ダン・エルブ。
「フハハハハハ! 達者なのは口だけか? 若造!」
【司祭アンソニー・バレンツ】はそう言うと、『秘密結社A』の初代会長の右わき腹へフックを放つ。
そのこぶしを、右ひじで受け止める会長。
「イヤ、あんたはやはり老いぼれだ。で、なければ私の右ひじが無事で済む訳が無い」
そう言って不敵な笑みを浮かべる、初代会長。──だが、本心はこう言っていた。
『危なかったぁ。何なのだ、あの重くて的確な左フックは! もう少し右ひじのブロックが遅かったら、私の【鉄】より硬い肋骨が折られていたぞ‼』
もちろん、そのような事は一切顔には出ていない。ただ鼻で笑って見せるだけだった。
「きぃいさぁまぁあああ!」
アンソニー・バレンツは、頭頂部から湯気でも出しかねない程。怒りで顔を真っ赤にする。
「貴様、貴様! 貴様‼ もおお許さん! 同系統の【魔闘士】として。じっくりと殺してやろうと思ったが、貴様にはアッと言う間の死体こそが相応しい‼」
そう言ってアンソニー・バレンツの左腕による、三発の連続ジャブが繰り出された。
それを首の動きだけでかわす初代会長。
「これでもくらえ!」
アンソニー・バレンツが右腕でストレートを放つ!
そのストレートを両腕でブロックする。腕の筋がミシリと音を立てる。普通ならバックステップで威力を消さなければ、腕が砕かれていてもおかしくはない。
だが初代会長は両腕の【鋼力】を【限界まで上げて】そして上半身を右側に逸らす事で、アンソニー・バレンツの必殺ストレートを“最小限”までダメージを減らした。
驚愕の表情を見せるアンソニー・バレンツ。
そしてその驚愕の表情は、恐怖の表情へと変わる。
何故なら、今の初代会長の態勢が渾身の右ストレートを出す。まさに【教科書】通りの態勢であり、左腕から見える初代会長の顔には。獰猛な笑みが見えているからだった!
攻城槌が、城の城壁を破壊するかの様な破壊音が響いた。
アンソニー・バレンツの身体が、十三メール(約十三メートル)後方に吹き飛ばされて行く。
「これで、どうだ!」
初代会長の雄叫びにも似た叫び声が響く。
【司祭】アンソニー・バレンツの筋肉がしぼんで行く。
鼻は潰されていた、前歯は粉々に砕かれていた。
だが、そんな状態でも、アンソニー・バレンツは息をしていた!
「この私が、十年に一度出せるかわからない【渾身】の一撃を喰らって、まだ息が出来るとは。何という【身体強化の術】か…」
初代会長の口から洩れる感嘆の声には、震えが入っていた。
「くううう、許さん…、許さんぞ!」
アンソニー・バレンツは【司祭】でもあるので、【回復術】は比較的簡単に覚えられた。
だが、それでも体が覚えてしまった“恐怖”は、容易には消せない。──生涯かかっても消えないかもしれない。
ガクガクと震える足が、そのこころに刻まれた“恐怖”を表していた。
彼は自分の回りを見る。するとその瞬間。【炎の魔闘士】と戦っていた【強化兵】と【大気の魔闘士】と戦っていた【強化兵】の二体がほぼ同時に、その首を落とされるのを見た!
「なに、何だと⁉」
【司祭】アンソニー・バレンツは、信じがたいモノを見たと言う顔をする。
自分の調整した【強化兵】二体が、あっさりと首を落とされたのだ。
【魔闘士達】は木の根元に体をあずけて、息を整えている、が。いまだ闘志を持つその目は、しっかりと自分に向けられていた。
【スターク・ロン! スターク・ロン私を今すぐに助けろ‼】そんな叫びにも似た【念話】を、【エセ精霊使い】に飛ばす。だが、帰って来た【念話】は最悪なモノだった。
【いまはそれどころじゃない! お前の授けた【呪いの精霊】が暴走して、手が付けられんのだ‼】
「な、んだとぉ⁉」
アンソニー・バレンツは、濃い水蒸気の柱を見る。
モクモクと上がる水蒸気から、明らかに途轍もない事が起こっている『音』だけが聞こえてくる。
「あの【エセ精霊使い】はぁ‼ 何をどうすれば、あの『呪詛』を受けた【アレ】を暴走させる事が出来るのだ⁉」
【司祭】である彼ならば【アレ】が、何なのかはおおよそ解かる。だが、あの【エセ精霊使い】にはそれすらも解らなかったようだ。
アンソニー・バレンツの目の前に、水蒸気から遠ざかろうとする【最近強化した兵士】が見えた。
【司祭】は、こう思った。
『おお、我が神はまだその【信徒】を見捨ててはいなかった!』
【司祭】は【念話】を飛ばす。【強化兵】は即座に反応して、【司祭】に駆け寄る。
アンソニー・バレンツはその姿に満足して、初代会長に体を向ける。
「さあ、我が【強化兵】よ。あの愚か者を殺しグプッ⁉」
【強化兵】ダン・エルブは、その右手に持っている【水晶製のバデレール】でアンソニー・バレンツを背中から刺し貫く!
「──…なにを、する、か…」
「コノオレヲ、ヨクモコンナ姿ニシタナ!」
アンソニー・バレンツの顔に驚き困惑する表情が浮かぶ。
「貴様、まさか自由意志を…──」
ダン・エルブは、右手でアンソニー・バレンツの頭を持ち。左手でアンソニー・バレンツの左肩を掴む!
「ヨク見ロ、太陽ガ西ヘカタムイテイクゾ」
アンソニー・バレンツの頭を、太陽の方角へ強引に向ける。
「…止めてくれ、まぶしい…」
アンソニー・バレンツは、半ば朦朧とした意識でそう言った。
「サラバダ、司祭様」
ダン・エルブは思いっきり自分の両腕を開く。
アンソニー・バレンツは壮絶な最期を迎えた。
な、何とか終わったー!
あ、でも。ハル・ラムズと、スターク・ロン戦はまだか。
まだまだ続くのかぁ。
では、次回にお会いしましょう。




