ネズミとネコ。その3.
数日後、トルクゥとボルチの二人が旅立った村へと帰って来る。
村の人々はトルクゥ達が生きて帰った事に驚き。村長の娘はトルクゥの胸に飛び込むとそのまま抱きしめて泣き始め、二人の関係が露呈してしまう結果となる。
そしてトルクゥは、村の英雄として正式に向かい入れられる事となった。
トルクゥはこう言ったのだ。自分が森へと着くとそこでは二人の『魔王』が戦っており、その一人が『魔王』エルドルだった事。
もう一人の『魔王』は名前を教えてくれなかった事。
そしてトルクゥは機転をきかしてその“名前も知らない”『魔王』と協力して、『魔王』エルドル退治を果たした。
と言う、ものがたりを村人に話したのだった。
その証拠にとトルクゥは、自分の右人差し指にはめた指輪から【炎の矢】を空へと撃ち放って見せて。最初、半信半疑だった村長は腰を抜かすほど驚いた。
もちろん作り話ではあるが『魔王』アルテア自身、そういうお話が大好きな事もあり。なお且つ『魔王』である自分には大して必要ではない“初級の『炎の指輪』”をエルドルの宝箱から見つけてしまい。どうするか迷っていたアルテアが、金貨三枚とこの『指輪』そしてこの“三文話”をセットにして、トルクゥに押し付けたのだ。
トルクゥにとっては『魔王』エルドルがすでに『死亡(?)』してしまっている現在。この先の身の振りかたをどうするか、考えていたところにまさに「棚から牡丹餅」といった感じであった。
アルテアは言う「おまえに『勇者』は向いていない。だから『英雄』になれ、村の『英雄』家族の『英雄』子供たちの『英雄』何だって良い。これから鍛えれば良い事だ。それともこう言った方がいいか? 『英雄』は長く生きられるが『勇者』はすぐ死ぬと」
トルクゥはアルテアの話を聞いて、体を震わせる。そしてこう言った。
「太陽が出ている」
昨日から降り続いていたあの雨は、いつの間にか降り止んでいた。
そしてアルテアは「じゃあな」とトルクゥに話しかけたあと、左手に鳥かごを持って自分の馬車へと戻り。様々な人種で構成された『魔王』アルテアの軍隊は、それぞれ始めに乗っていた幌馬車に乗り込むとキャラバンは、ぬかるんだ道をものともせずに北の方へ一列に進んで行った。
その後トルクゥは『冒険者』の道をあきらめ、村長の娘とこの村としては過去に例がない程の大きな結婚式を送り。六人の子供たちに、いつの間にか大きな尾ひれの付いた自分の「英雄譚」を懐かしそうに語っていると言う。
皆様、お疲れ様でした。
ではまた数ヶ月後に会いましょう。