ネズミとネコ。その2.
トルクゥは目を見張る。自分を取り囲むように人、あるいは人に近いヒューマノイドで構成された軍隊が。アルテアの馬車を中心に武器を構えて待っていたからだ。
その人種構成はヒューマンや、オーク、オーガーなどが多かったが。中にはセントールやリザードマンまでいた。
比較的に身体的特徴の近い、ヒューマン、オーク、オーガーだけでは無く。四本足のセントールや、長い尻尾を持つリザードマンまでにそれぞれの特徴を生かしつつ、それでいて統一感のある軍服に金属製の鎧が支給されていた。
それだけでも大変そうなのに。彼らが手に持っている武器は量産品でありながら、精工な作りの良品だった。
トルクゥは思う。自分の持っていた武具の粗末さに比べて、何という贅沢品なのか。そしてさらに思う、『魔王』アルテアは間違いなく“成功した”一流の『魔王』だと。
「オー!!」一人の、軍服を着ているが武器を手に持っていない男が雄叫びを上げる。
「オオー!!」身長が二メール(約二メートル)のオーガーがそれに続く。
雄叫びはその場にいた八十人を超える軍隊に伝染したかの様に伝わっていく。
最初トルクゥはその雄叫びが自分を殺す合図なのかと思った。だがその雄叫びが自分に向けてでは無く、その後ろにいる人物へのモノである事にすぐ気付く。
トルクゥはその場にへたり込んだ。そしてその人物が『魔王』エルドルの首を入れた鳥かごを掲げると、雄叫びは絶叫へと変わった。“皆の者ご苦労だった”。『魔王』アルテアは言葉を使用しないで労いの言葉を紡ぐ。“皆には苦労をかけさせてしまった、すまぬ”。アルテアは心痛の表情をうかべる、そしてこう続ける。“──だが、皆のおかげでこの。大バカ者を捕える事が出来た。ありがとう”。そう言って『王』が家臣に頭を下げた。
「そんなみずくさい事を言わないでください、魔王様!」目から涙を流して、オークが叫ぶ。
「あなたのおかげで、我らは普段こんなに良いくらしが出来るようになったんだ。お礼をしたいのは我らのほうだぜ!」オーガーの一人が同じく涙を流しながら笑って言う。
「人間として半端者だった俺を一人前にしてくれたあんたの頼みごとなら。どんな事だってして見せるぜ!」がっしりした体格の男が目を真っ赤にしながらそう言い切った。
トルクゥは。オーク語も、オーガー語も解らないし、ましてや話せる訳が無いのになぜこの場にいる、ヒューマノイド達の話が解かるのか知らないが。アルテアのいわゆる“人望”の厚さに驚いていた。
同じ『魔王』であるにも関わらず。『魔王』アルテアと、『魔王』エルドル。この二人の違いは何なのか? そんな事を考えながら茫然としているトルクゥに、アルテアが一つの指輪を投げてよこした。
ネズミとネコ。次話で最終回。