ネズミ、初めて殺人をする。
一匹のゴブリンの額がハンドアックスで割られた、残りは二匹。
トルクゥは油断なく左手のシールドを前面に構え、先ほどゴブリンを仕留めた余韻に浸る間も無くハンドアックスを右肩の上に構える。
トルクゥが自分の村を出てまだ四日しか経っていない、目的? もちろん冒険者になるためだ。その準備にこの半年間の稼ぎを全額つぎ込んだ、もう後戻り何てできない。
丸い厚手のシールドは大工のトムさんに頼み込んで作ってもらった、革で出来た頭と胴体を守るレザーアーマーは、革職人のダンパが秘密で作っていた物を格安で譲ってもらった、もちろん本当はダンパが着ける物だったが、今や妻子持ちのダンパにこっそりと村を出る、そんな度胸何て無いから格安でもらってやったのだ。
トルクゥには人間を殺した経験なんて無い、せいぜい狼を数匹このハンドアックスで仕留めた程度しか無い。だからだろうか今トルクゥはとても興奮していた、これが“血に酔っている”と言う感覚だろうか、ああ、哀れなゴブリン共、俺の実戦経験のために死んでくれ!
「冒険者様! 頑張ってください!」トルクゥの後ろから少女の声がする。
そう、トルクゥはゴブリン三匹に嬲られそうになっていたこの少女を助けるために戦っているのだ、自分の身も守れないなら一人で森の中などに入らなければいいのに、とトルクゥは思うが、声援を受けながらの戦いは思っていたよりも気持ちがいい、まさに正義の味方になっている気分だった。
「来いよ、ゴブリン共!」そう言ってトルクゥが一歩前に出る、するとゴブリンの一匹が地面に落ちている石を投げ始める。
「おっとと」思わずシールドで石を避ける、たかが石と甘く見ると本当に痛い目に合う、本気で投げられる石には十分な殺生力がある。
石を避けるために上げたシールドの下からもう一匹のゴブリンが青銅製のナイフで襲ってくる、大きな鼻と大きな耳を持ついわゆる“ゴブリン顔”に仕留めた、という笑みを浮かべるナイフを持ったゴブリンだったが、トルクゥの方に運は向いていた。
「丸見えだ!」そうトルクゥは言うと、シールドの枠でゴブリンを殴った。
「ギャ!!」トルクゥのシールドは木製だったが枠は鉄で出来ていた。そしてゴブリンは土属性の妖精だった。土属性とはいえ妖精であるゴブリンにとって、高純度の鉄は毒以外の何物でも無い。
二匹目のゴブリンを倒したトルクゥは、残り一匹になった石を投げるゴブリンを睨む。
「ギヤアアァァアア!」慌てて森の奥へ逃げようとするゴブリンに、トルクゥは右手に持っているハンドアックスを投げつける。
ハンドアックスは狙い通りゴブリンの後頭部を割る。
「ああ、私の勇者様」後ろから抱きしめられるトルクゥだったが、それとは別の事に興奮しているトルクゥ。彼の“最初の殺人”はこうして終わった。
うー、感が戻らない。でも、まあこんなものだろう。