レクターレ動乱。末路。
【司祭】アンソニー・バレンツがそう叫ぶと、自分の体へ強制的に【マナ】を送り【オド】へと変換して、骨格と筋肉を【強化】した。そして次の瞬間筋肉が膨張を始める!
枯れ枝の様だった手足が、ミシミシと音を立てて膨れ上がる。
洗濯板のようにあばら骨の浮き出ていた胸板は、張り裂けんばかりに胸筋が膨れだす。
最初の、肩から垂れ下がっていた青銅製のチェインメイルも今は、その発達した筋肉に千切れ飛びそうだった。
「私と同じ、──いや。向こうの方が私を上回っている。伊達に年は取っていないか」
そう言ったのは【アルテア軍】の【魔闘士】の一人で、身体強化をして見せた者だった。
「驚くのはまだ早い、出て来い、皆の者。お前たちのご主人様の命令だ!」
そうアンソニー・バレンツが大きな声で呼ぶと、藪の中から三人の筋骨たくましい。上半身はだかの若者たちが現れる。だが、その顔はどこか虚ろに見える。
「おい、あいつの持っているバデレールは!」
風が渦を巻くスピアを持つ【魔闘士】が、穂先をそいつに向けた。
「アレはまさしく『水晶のバデレール』! このレクターレでは、王族のみが帯剣出来る武器! オイ、【司祭!】お前まさか。ミリアン様を」
【魔闘士】の一人、炎を噴き出すバデレールを持つ男性の手が震える。
「いや、待て。ミリアン様の髪の色は黒! だがあの男の髪は茶色い。ミリアン様では無い」
不定形となった青銅製のシールドを持つ【魔闘士】がそう言った。
「クッフッフッフ、ミリアン様をあのような【実験】には使わんよ、あの者はロスコー・アウグストスを打倒した者。もっともそれ程の偉業を成し遂げながら、その事を悔いており。【アルテア軍】へ自首しようとしたので、仕方無く、私が推し進めていた【強化兵】への実験体の一人になってもらったのだよ」
アンソニー・バレンツはさも当然のようにそう言った。
「それは本人の希望だったのか?」
ハル・ラムズは解かっていても、敢えてアンソニー・バレンツに聞いた。
「馬鹿を言え、本人に適性が無いのだから。あの身体になった瞬間に、寿命はもって一~二年。本人の希望など聞いてどうする?」
これもまた当然と言いたげに、アンソニー・バレンツは言った。
こう、書いていてなんだけど。
この教団って【悪の秘密結社】だよねぇ。
まぁ、狙って書き始めたのは事実だけど。
では、また次回にお会いしましょう。




