レクターレ動乱。【司祭】
「スターク・ロン、遊んでいないでサッサと片付けましょう」
そう言って林の奥から現れたのは、青銅製のチェインメイルを全身で覆い。右手に鉄のヘッドを付けたメイス、左手にシールドを持った、年老いた【司祭】だった。
「これは失礼しました、アンソニー・バレンツ【司祭】様」
そう言うとスターク・ロンは頭を下げる。
【司祭】アンソニー・バレンツと呼ばれた老人は、まるで。校長先生が大きなイタズラ坊主からの謝罪を受け入れるようにうなずくと、ハル・ラムズを初めて見る。そしてスターク・ロンにこう聞いた。
「スターク・ロン。アレがお前の嫌う『奇形』の【魔術師】かね?」
ハル・ラムズは驚いた。人を導く【司祭】が人を外見で、しかも声高らかに『区別』したのだ!
アンソニー・バレンツはハル・ラムズを見て、更に続けてこう言った。
「おい、『奇形』の【魔術師】私は【太陽神ネファーの司祭】アンソニー・バレンツだ。お前のような出来損ないを殴るのは、この私のメイスが汚れるからこの場から消えろ」
そう言って野良犬でも追い払うように、シッシッと手首を動かす。
ハル・ラムズの心に怒りの感情が湧いて来る。ここまで馬鹿にされたのは、まだ幼い頃以来だった。そして思う。あの時、今にも爆発しそうだった私を止めたのは、今はもうこの世に居ない【宮廷魔術師】バン・アーレ様だった。あの方はこう言った。
「ハル、今お前がどのくらい傷ついているかは、私には解らない。だがこれだけは言える。お前を傷つけた相手をもう一度思い出せ。そいつはお前の“誇り”と共に消し去るに値する相手か? どうだ? そいつはこの先、お前が生涯背負ってゆく。命の重みに加え無ければならない相手か?」
アノ時のあの言葉が、私をただの殺人鬼では無い。──そうなっていたかも知れない自分を消した。では、いま私の目の前にいる老人はどうか?
「お前のような“出来損ない”を、わざわざ弟子にした【元宮廷魔術師】も、どうかしている」
アンソニー・バレンツはどうでもいい、と言った感じでそう言ったが。ハル・ラムズの心の中にある『なにか』を引きちぎるには、それで充分だった。
「──私の恩人を愚弄する事は許さんぞ! この、人の本質も解からない三流【司祭】が」
ハル・ラムズが【マナ】を体内に入れる中。アンソニー・バレンツが吠えるように言った。
「私は【三流】では無い。身の程をわきまえろ! 駄犬がぁぁ‼」
これで、198話! あと2話で200話に達します‼
このお話し。よくもまあ此処まで達したモノです。
でも。終わりまで、まだまだこれから。
もう少しお付き合いください。
では、次回にお会いしましょう。




