レクターレ動乱。越権行為。
『どうする、どうすればいい⁉』
ダストン・ロイド少将はあきらかに動揺していた。そしてそれは、仕方のない事だった。
【下士官】として過ごし続けた彼には。アッガス・マルド少佐の突進力も、レイガス・サロー千人隊長の持つ発想力も、持ち合わせてなどいない。
よく言っても平凡な男。悪く言えば、面白みのない人生を送るのが精々な奴だった。
そんな男が、アッガス・マルドの相手をさせられる。──悪い冗談のような現実だった。
「司令官【槍兵】で、アッガス・マルド少佐の突撃を逸らして【弓兵】で、レイガス・サロー千人隊長を攻撃します、よろしいですか⁉」
【第六偵察中隊指揮官】クック・ハル大佐は、明らかな越権行為で【軍】を動かして。最終確認をダストン・ロイド少将に迫った。
「あ…」
ダストン・ロイド少将は自分の手から、今までの人生で自分に与えられた【最大の兵力】が。かすめ取られてゆくのを感じたが、だからと言って『代替案』が在る訳でも無く。思わずクック・ハル大佐にうなずいてしまった。
「………よろしく頼む」
ちから無くそうつぶやいたダストン・ロイドから、【槍兵部隊】と【弓兵部隊】の指揮権を、半ば強引に奪い取ったクック・ハル大佐は。【槍兵部隊隊長】イダム・ウィロー少佐に向かってこう言った。
「ウィロー! そう言う事だ‼ 存分に暴れて来い‼」
少佐はここぞとばかりに大声で笑うと。クック・ハル大佐にこう言った。
「お任せください、大佐殿! このイダム・ウィロー必ずご期待にお答え致します‼」
クック・ハル大佐が、まだ伍長の時からの【仕事仲間】であったイダム少佐は。その日にやけた赤茶色の顔に、白い歯を見せて笑うと。【槍兵部隊】全員に聞き間違いの出来ない命令を伝える。
「【全槍兵部隊】突撃せよ‼」
未だ強力な『興奮剤』で、恐れを知らない【槍兵達】は。両手でスピアを構えて丘の上に突撃していく。
「【弓兵部隊】は丘の上に陣取っている。レイガス・サロー千人隊長率いる【弓騎兵隊】を狙え! 丘の下へは、絶対に降ろすな‼」
【弓兵部隊】は【槍兵部隊】を掩護させる為に存在するが、『野犬とイノシシの共闘』などと言う冗談にもならない事を避けるためには、『軍の分散』は仕方が無い事だった。
”部隊の逐次投入”と、”兵力の分散”は、行ってはいけません。
──でも、この場合は?
では、次回にお会いしましょう。




