ネコ、魔王エルドルの話をする。
魔王エルドル、確かにあの『魔王』はこの『魔王』アルテアとは全く違うだろう! ここから一日もかからない大きな森の中で、百匹以上のゴブリン共を従えて。森の近くの村々を襲い村人達を殺し、奴隷としてさらっていく外道。アルテアは“自分は少数派”だと言っていた、では“多数派”とはどのような奴らだろうか。──想像はつく。小さな明かり取り用の窓が一つだけの、怪しげな標本や、呪文の書かれた分厚い沢山の本が本棚に押し込まれた薄暗い部屋。
その中央に置かれた大きく歪んだテーブルを囲む様にして、ゴブリン共から選ばれた頭の良い異質なゴブリン数匹を助手にして。この世の誰が得をするのかさえ解らない頭のネジがいかれた実験を繰り返す。そんな奴らが多数派の『魔王』なのだろう。
「……偏見もいいところです……」アルテアは半ば呆れた様に笑っている。
それに、と。アルテアは続ける「そんなのは“多数派”ではありません! “少数派”どころか、わたしも聞いた事のない『何か』です」アルテアは断言する。
「わたしが“少数派”なのは、王国を作り、それを長い目線で維持しようとしている所です!」そう言ってアルテアは話し出す。
「人々から『魔王』と呼ばれているモノ達の中でも、本当に『王国』を動かそうとする者はごく少数なんです。大部分の『魔王』は『王』と呼ばれても、国家運営なんて事には素人同然なのです、当たり前ですが彼らは『魔法使い』です。国を動かすにはそれ相応の『魔術』とは別の勉強をするか、優秀な『文官』を数人雇っておおまかな指示を下した後、彼らに任せるしかありません」そう言ってアルテアは手を動かし、放り投げるしぐさをして見せる。
「さて、ここで魔王エルドルに話を戻します。あの男はまさに“多数派”です、魔道を追求したい為だけで『魔王』を名乗る事にしたタイプです。それ以外に『魔王』という職業に興味がある訳でもなく、特に『魔王』として何かを残したいとも思っていない。そういう人間性のためと言いますか。いささか部下からの報告、もしくは忠告を軽んじる傾向が見受けられます。特に部下からの忠告を嫌う傾向がありますね」ため息をついてアルテアはそう断言する。
「だから他の『魔王』なんかの意見にも耳を貸そうとしない、その癖に自分は“一人前”の『魔王』だと勘違いしている。ほかの、特に部下からの意見を聞かない『王』達が、かつてどのような目に遭ってきたかなんて学ぼうとしない」……何故だろうとトルクゥは思う。アルテアの口調は変わらないのに、馬車の中が寒くなってくる気がする。
淡々とアルテアは喋る「だから“多数派”の『魔王』達は嫌いなんです。彼らのほとんど全てが何故短命なのかが解かる前に消えて行ってしまう。“多数派”の『魔王』達すべてが嫌な奴らなら、わたしも何も気にする必要はありませんが。中にはいるのです、“国家運営の才能さえあれば良い友人関係を結べたであろう”『魔王』達が」淡々とした口調はここで終わる。
トルクゥの背中を冷や汗がつたう、だがそんな事など気にもとめずにアルテアは話を変える。
「魔王エルドルは、“多数派”の代表ですね。わたしに勝てると思っている所とか。でもねこの姿でも生きていると、さすがに心が痛みます」そう言ってアルテアは、鳥かごを見る。
残り3話。待て、次話。