レクターレ動乱。行わない理由。
「アルテア様の策、とはいったい何ですか。教えてください!」
そう詰め寄る【参謀長】に、アルテア・アトラウス・アウグストスはこう思う。
『マカロス・リクター中将の直属の【参謀長】にしては頭が固い。いや、それとも素直すぎるのかな?』
そう思いつつ、チラリとアルテアは、マカロス中将を見る。
好々爺、といった雰囲気を醸し出しているマカロス・リクター中将は、アルテア・アトラウスにうなずいて見せる。
「では、最初は【要塞】と言うのは何なのか、と、言う処からかな?」アルテアがそう口にすると、【参謀長】は止めに入る。
「いえ、さすがに【要塞とは何か】ぐらいは、知っております」
「そうか、では【要塞とは何か】をここで説明してくれないか?」
【参謀長】は、侮辱でもされたかのように顔を赤くしてアルテアを見るが、一回咳払いをして話し出す。
「【要塞】とは簡単に言ってしまえば【拠点】ですその目的は攻撃をおこなう側が作れば攻撃拠点として防衛側が作れば防御拠点になる陣地です」
「うんうん、その通り。つまり攻撃を受ける側にしろ、逆に攻撃をおこなう側にしろ。出来るだけ早く作れるのなら、それに越した事はない。いや、攻防どちらにしても【要塞】を作ると決めたのなら、何を差し置いても作らなければならない。出来そこなった【要塞】程役に立たない物は無いからね」腕を組んでうなずくアルテアと【参謀長】
「ではだ、【ミリアン軍】の作った【要塞】は、攻撃的かな。それとも防衛的かな?」
アルテアはわざと意地の悪い聞き方を【参謀長】にする。
「我々の攻撃を受けて、その攻撃を受け止めようとの意思が感じられるので、防衛的かと」
「でもわたし達には、攻撃する意思が無い。その場合あの【要塞】をどうする?」
「その場合には攻──」そこで【参謀長】はいま自分が、何処にいるのか気が付く。
「そう、ここは何にも無いただの演習場だ。攻撃をしたくても攻撃目標が無い!」
アルテアは両手を大きく広げて、クルリと一回まわって見せる。
「わたしにとって【ミリアン軍】が制圧した、王都レクターレでの『市街戦』こその方がよっぽど恐ろしい事だった」
右手を空にかざしてアルテアは、手のひらを広げて見せる。
「敵と、味方。そしてまったく関係の無い人々が、入り乱れて戦う。これだけでも恐ろしい」
アルテア・アトラウスの右手のひらから血の気が引いてゆく。
「大人数で戦うのに向いていなく、少人数での戦いに向き、以外と武器には恵まれていて」
アルテアは思わず両肩を抱きしめる。
「スル・ガーゴンから教わった戦いの中で、わたしは『市街戦』が最も恐ろしい!」
もとアルテアの家庭教師にして、現在【第三軍参謀総長】
スル・ガーゴン氏は、アルテアにどんなトラウマを植え付けたのでしょう。
答えは『市街戦を避けるため』でした。
では、また次回にお会いしましょう。




