レクターレ動乱。【第三十三高地】
「何じゃあれは?」【第二王位継承者軍】こと【ミリアン軍】の【偵察兵】は、幅百メール(約百メートル)程しか無い丘と丘の谷間を、信じられない速度で土煙を上げて走る。千台の馬車を見つめてこう言った。
「いくら何でもアレは反則だ‼」
そう言った【偵察兵】は啞然としながらも。【偵察兵】としての仕事をまっとうするために、【第三十三高地】に陣取る本隊へ【念話】を飛ばす。
「千台以上の馬車が、刻速三十キ・メール(約時速三十キロメートル)の速度で、我々の居るこの【要塞】に向かって来る? 正気か⁈ 貴様‼」案の定な反応が、報告して来た【偵察兵隊隊長】に対して送られる。報告をして来た【偵察兵隊隊長】は、こう言って反論した。
「四回確認しています、四回目は【別動の偵察兵】からの報告で確認済みです!」
【ミリアン軍の参謀官】の一人が口をぱくぱくさせて、次の言葉を出そうとして諦めた。
「要するに、アルテア様が絡んでいる。──そう言う訳だな?」若い愛人の女医との“愛の営み”を邪魔された、パトリック・アース中将が。いら立ちをこめてそう決断を下した。
「そう言う事になると思います、ご決断をお願いします」そう言って【偵察兵隊隊長】は、敬礼を送りつつ退席してゆく。
力のぬけた【参謀官達】が、丈夫なだけが取り柄の飾り気の無い椅子に座り込む。
「最初は勢いで言ったのかと思っていたが、まさか本当に二日以内でやって来るとは…」
【参謀官】の一人がそう言って、汚い天井を見上げる。
「アルテアさ…【第一王位継承者】の行動力は、皆知っているでしょうに…」
別の【参謀官】が『なにを今さら』と、付けたいように冷たくそう言った。
「刻速三十キ・メールの速度で来られると、夕方にはこの近くの丘に【陣取る】事さえ考え無いとなりません…」
そう言って更に別の【参謀官】が、この近く一体が描かれた地図を見て指摘する。
ぞろぞろと、椅子から立ち上がった【参謀官全員】が、テーブルに止められた地図を見下ろして意見を交わす。
「【第三十三高地】の近くには、【陣を敷く】のに向いた【丘】がありません。──と言うより、元々この【第三十三高地】が、このあたりで一番【陣を敷く】のが好都合なのです!」
「何処かで見落としていないか?」
そう言った【参謀官】を別の【参謀官】が問う。
「何処か、とは何を、だ?」
「どのような些細な事でもいい、この【要塞】を素早く落とすのに、好都合な何かだ!」
このやり取りを聞いていた【参謀官】の一人が、ふっと気が付いて叫んだ。
「しまった‼ 我々は何て愚かなのだ‼」
さぁて、皆さんには何が問題点なのか、分かりましたか?
では、次回でお会いしましょう。




