レクターレ動乱。ある馬車での会話。
気の早い雑草が生えている荒れ地を、二頭馬車が南へと走って行く。
二頭馬車とは言え、その速度には目を見張るものがある。それもそのはず、その馬車の車輪は四つの軸に四つの板バネが付けられた、【第三軍】の【兵士運搬用】に作られた【兵員輸送馬車】だった。
それが一両や十両では無く、じつに千両を越える集団を作って。普通の馬車では、荒れ地で出す事の出来ない速度で走って行く。
「だが、まだまだ改良の余地があると思う!」めずらしく自分の馬では無く【兵員輸送馬車】に乗っているアルテア・アトラウス・アウグストスが、そう文句をつける。
【兵員輸送馬車】によっぽど、乗って見たかったようだったが。その乗り心地の悪さにこう言った。
「これでは【兵隊】がかわいそうだ」
「これでも改良に一年掛けたのです、いまの我が国ではこれが限界です!」バンダー・ルー【千人隊長】が、ガタガタと揺れる【兵員輸送馬車】の中で、いい訳じみた事を言う。
「車輪がもう少し柔らかいと良いのでは?」他軍の事とは言え。めずらしくそう言うマカロス・リクター中将も、この乗り心地の悪さには思う処があった。ほかの【兵員輸送馬車】の中には【陸軍兵士】が乗っているのだから、なおさらだった。
「しかし、なめし革は使えません。前に何度も、レザーを巻いた車輪を使ってみたのですが、一キ・メール(約一キロメートル)程度でみんな千切れてしまいました。木製の車輪でさえ十キ・メール(約十キロメートル)持ちません。いまは鉄の枠をはめて強度を持たせている段階です!」バンダー・ルーはそう説明する。
「……鉄かぁ……」アルテアは複雑な顔をする。【先天的な妖精病】の為、鉄に触れられない身体を持つアルテア・アトラウス・アウグストスには、思う事が多々あった。
「皆さん少し静かにして貰えますか? 先行している【偵察部隊】から来る報告の邪魔になります!」
【第三軍参謀総長】スル・ガーゴンのその言葉で、比較的大きな馬車の中がピタリと静かになる。
「【第二王位継承者軍】の居場所が絞れて来ました。第三十三高地の【要塞跡】との事です」
全員が“三十三高地”と書かれた地図を、テーブルに広げて顔を突き合わす。
「──あの男また【要塞戦】をおこなうつもりかぁ」アルテアはため息交じりにそう言った。
「パトリック・アース中将ですから、そう考えるのでしょう『将軍は過去の成功例で作戦を考える』ものです」マカロス・リクター中将が、髭をさすりながらそう言う。
「今回は別です。我々【第三軍】無しで【ろう城戦】は無謀です!」アルテアは言い切った。
「面白いではありませんか」バンダー・ルーはこう言う。“援軍無しの【ろう城戦】がどれ程つらい”か、『教えて』差し上げましょう。ここにいる全員がうなずいた。
なんか、174話で何故あれだけ、時間がかかった意味が分かった気がする。
いつもこの様に、書けたのなら良いのですが。
では、次回またお会いしましょう。




