レクターレ動乱。アルテアの後悔。
アルテア・アトラウス・アウグストスの上半身を、【空中戦艦】アルバトロスの側面に映していた。魔法の鏡【投影の鏡】は、アルテア・アトラウスが後ろを向いた時に、流されていた【オド】が切られて普通の銀の鏡へと、元の状態にもどった。
「父王と、母上。その最後さえ見届けられなかった……」
先ほどの宣戦布告を受けた際の、力強さはどこかに消え去ってしまっていた。
「苦しまずに逝けたのだろうか」アルテア・アトラウスの声に、悔しさとそれに倍する悲しさがいりまじり。
その声は小さく震えていた。
「苦しかったか、と言われたら苦しかったと思いますが」灰色の髪をオールバックにして。丸いレンズの入った眼鏡をかけた、【第三軍参謀総長】スル・ガーゴンは続けた。
「あの出血量ではその苦しみは、長くは続かなかったと愚考します」
「貴方の話かたはまるで見て来た風に聞こえるな」アルテア・アトラウスの眉間が絞られるが、口の両端はゆるやかに上を向いていた。
アルテア・アトラウス・アウグストスの視線が、立食パーティーで使われる。脚は高いがそれでいて食べ物を乗せる面の小さい、独特な作りのテーブルの上に乗せられた鉄製の鳥かごを見る。
「わたしは傲慢なのかもしれない」鉄製の鳥かごの中には、ミスリル製の王冠が入っていた。
「あの時に叔母のいう事を無視して、この王冠をかぶっていれば。これから行なわれる流血は避けられていたのに」
アルテア・アトラウスの両手の指が力を込めて握られる。
左手のひらに巻かれた包帯から血が滴り落ちる。
「アウグストス総司令官」中肉中背で、髪の毛の生え際が後退した四十五歳の【第三軍千人隊長】バンダー・ルーは、アルテアの後ろで片ひざを付いて。アルテア・アトラウス・アウグストスを見上げる。
「もしもアルテア様が王と、王妃の事を無視して王冠をかぶっていたら。私たちの忠誠心は死んでおりました」そう言った後バンダー・ルー【千人隊長】はこう続ける。
「我々【第三軍】一度は地に落ち、のたうち回った者達ばかり。この命どのように使い潰されても、誰も文句をつけません!! 例えこの先が地獄であっても、我々は笑って行軍いたします」
「──お前達の忠誠心には、時々怖いモノを感じるぞ」そう呟くとアルテアは、バンダー・ルーにむけて薄く微笑んだ。
「ではこれからの作戦会議をおこなう。スーラートでの暴徒は制圧した。次はどの町の暴動を鎮圧するべきか?」そう言ったアルテアの問いに、スル・ガーゴンが答える。
「もちろん、『アトラウス』ですね」全員がうなずいた。
さぁて、段々書く事が少なくなってまいりました。
この連載も、あと数ヶ月と言ったところでしょうか?
あの、クライマックスが書きたいために、続けたのですから。
それまでお付き合いしてください。
では、次回。




