レクターレ動乱。悪女。
「それでは二日後に、戦争を行ないます場所は──」アルテア・アトラウスがそこまで言った時、ミリシア・アウグストスは慌ててこう言った。
「ま、待っていくら何でも二日で戦争準備は出来ないわ!」
「何を言っているのですか、わたしはこれでも譲歩しているのですよ?」そう言ってアルテアは、眉間にしわを作った。
「この【空中戦艦】アルバトロスには、十三か所に溶鉱炉で溶かされた鉛が入っています。その城にその溶けた鉛をかけさえすれば、その掛け替えの無い城を燃やしてしまう事だって出来るのですよ。叔母さま!」
そう言ってアルテアは、するどい目つきで城を睥睨した。
「戦争開始は二日後です、不戦敗なんて認めません。戦場は王都の南にある【陸軍の演習場】で良いでしょう、ではそう言う事で!」
そう言ってアルテア・アトラウス・アウグストスは、ロスコー・アウグストス王と同じ白い軍服をひるがえして、後ろを向いた。左手に包帯を巻いて、そして軍服にも赤い染みが付いていた。
【空中戦艦】と言う途轍もない災難は、このように東の空へと帰って行った。
だがそれも城で略奪行為をしていた、【太陽神ネファー】の信者達にとっては何の救いにもならなかった。
二日後、──いや。すでに東の空は明るくなっているので、あと一日と半分の刻で南の荒れ地で彼らは、戦争を行なわなければならない!
彼らは、いや女性や子供達も城を襲っていたので同罪で、彼ら達は。
戦争と言う無慈悲な殺し合いに参加しなければ、ならなくなってしまった!!
もはや彼らに略奪の意思は無く。どうすれば戦場から逃げ出せるのかしか考えていない。
そして彼らは思い立つ。
そのような方法など、この世には存在しないという事に。
「母上、父上がいま亡くなりました」ミリアン・アウグストスは、事実を静かな口調で自分の母。ミリシア・アウグストスに伝えた。
「──そう」ミリシア・アウグストスは最後の命綱が切れたのを実感した。
「それだけ? ねえ、母さんそれしか答えてくれないの⁈ 貴女の妹は、その首をかき切ったって言うのに?」ミリアンの言葉を聞いても、ミリシア・アウグストスの反応は鈍かった。
戦争は避けられそうにも無い。この段階で高見のけん物を決め込んでいる貴族を巻き込むには……。
「ミリアン、貴方には野望は無いの?」ミリシア・アウグストスは、自分の子供の両肩に手をおいて諭すように問いただした。
「──母さん?」ミリアン・アウグストスは最初、自分の母親が何を言っているのか解らなかった。
「貴方には命を捧げても手にしたい。そう言う、本来ならば諦めるしか無かった望みは一切ないの?」ミリシア・アウグストスは、ミリアンの肩に乗せた手にちからを入れる。
「………手に入るならどんな事だってする覚悟のあるモノはあるよ」あえてそれが何なのか言わずに、ミリアンは答えた。
それを見てミリシアは、自分の身長より高い息子の両肩を、鷲づかみにしてこう言い諭した。
「だったら喜びなさい。それは貴方のその手で手に入れられるモノよ! だって貴方には、アウグストスの血が流れているのですから!」ミリシア・アウグストスは、そう言って『この賭けはまだ私を見捨てていない』事を。心の奥底で【神】に感謝した。
「でもその為にはあの、男かも女かも解からない【第一王位継承者】と戦って。勝ち取らなければならないわ、【正当なる王の王冠】を」ミリシアは自分の息子に耳打ちするように囁いた。
『!!』ミリアンはこの女を、今すぐにでも捨て去りたい気持ちでいっぱいになった。
この女は何故自分の息子が、何故こんなにも追い詰められているのか、分かっていない!
分かろうともしていない!
ミリアン・アウグストスの目に涙があふれる。
「悔しいでしょう、寂しいでしょう、その気持ちを抱えてあいつに。アルテア・アトラウス・アウグストスに、ぶつけてやりなさい!!」いつの間にかひざを付いて泣いている、自分の息子の頭を優しくなでながら、ミリシア・アウグストスは思った。
この戦いはまだ終わっていない。──と。
ミリアン・アウグストスは思う。
『ああ、神様。何故自分はここまで不幸にならなければならないのですか?』そしてこう思う。
『俺は前世で、どれ程の悪行をおこなったと言うのですか? 神様!!』
この世に、いわゆる『悪女』ネタは数あれど。
これほどの『悪女』は、滅多に見られません!
思わず笑っちゃう位の『悪女』!
この女が、可愛く見られる話があった、と言う人は、僕に教えて!
では、次回。




