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ヒマな魔王様はヒマが欲しい  作者: さんごく
5章・魔王誕生、その二。

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レクターレ動乱。ロスコー・アウグストス対ダン・エルブ。その一。

 カーペットの上に広がる血だまりの上に横たわる十九人の遺体。彼らを見下ろすカタチで会い対峙する、国王ロスコー・アウグストスと。【反乱者】のダン・エルブ元少尉。

 ロスコー・アウグストス王の持つ武器は、一本の水晶の柱から削り出したこの世に十本も無い特別なバデレールであった。

 対するダン・エルブ元少尉の持つバデレールは、青銅製の。ある程度【魔力制御】の出来る【兵士】に与えられる量産品である。

 硬さならロスコー王が持つ、【水晶の】バデレールの方が硬い。だが、【水晶の】刀剣は脆くもあった。『硬いが脆い』それがロスコー王の持つバデレールの特徴だった。

 対してダン・エルブの持つバデレールは、【兵士】が持つ武器の中でも特に特徴の無いモノだった。切れ味が特別に良い訳でも無く、硬さも高いわけではない。それなら青銅にこだわる必要も無い。──普通の【兵士】だったのならその通りだった、そう普通の【兵士】であれば──。


 彼、ダン・エルブは教官から【魔闘士もしくは魔術師】としての才能を見出されていた、言わば“血統書は無いが優秀な何か”である可能性があったと言う事だった〔それが何かは解らないが〕。

 その為に彼に支給された武具は、どれもこれも青銅製の物ばかりだった。


「自分はなぜこのような仕打ちをされ続けられなければならないのか!?」ダン・エルブはそう思う毎日を、おくり続けて過ごしていた。

 青銅製のバデレールに、同じく青銅製のブレストプレート? 鉄の〔特に鋼の〕武具に比べて重いくせに、それに見合った性能の無い武器と防具。

 どうして自分だけこのような質の悪い物を、使わなければならないのか?

『鉄は魔力を霧散させてしまう』この【魔術師】であれば知っていて当たり前の知識が、あいにくとダン・エルブには欠けていた。

 彼の家は余り裕福では無い【果物農家】であって、良い作物をつくる知識はあっても、【良い魔術師】になる知識が欠如していた。

 そんな彼に近づいて来たのが、【太陽神ネファー】の信者達だった。

 信者達は彼の言葉に相槌を送り、純真無垢な青年を瞬く間に熱心な【ネファー神】の信者に、変えてしまった。

 その間なぜ彼に、青銅製の武具ばかりが、支給され続けた事を知る機会も勿論あった。

 だがその時はすでに遅く、その持って産まれた才能を。大司教ブール・ベルの為だけに、使うと決めてしまっていた。


【レクターレ王国城の門番】改め【太陽神ネファーの聖騎士】ダン・エルブは、国王ロスコー・アウグストスと、いま剣で戦おうとしていた。

 最初に動いたのは、ロスコー王だった。素早い足運びでダン・エルブに近づくと、その頭に右手だけでバデレールを振り下ろす。

 エルブは左手に持っていた、木材と青銅、そしてレザーを組み合わせた。ノーマルシールドでその一撃を受け流すと、右手に持っている青銅のバデレールを、右から左へロスコー王のわき腹を裂こうと振るう!

 ロスコー・アウグストス王は左手にシールドを持っていない為に。バックステップでその攻撃をかわす。だがただかわした訳では無い、ダン・エルブはロスコー王がバックステップで逃げる事をあらかじめ予測しており。追撃する様に距離を縮めて、シールドで殴るつもりでいた。

 その為ロスコー王が、バックステップを途中で止めて。バデレールの切っ先で突きに転じたときに、ダン・エルブが思わず声を上げたのは仕方がない事だった。

 ロスコー王の水晶製バデレールが、喉元をえぐる瞬間。

 ダン・エルブのとても優雅とは言えない、バタバタとしたバックステップで逃げられたのは。もはや奇跡とさえ言えるモノだった。

 そしてダン・エルブの災難は更に続く。ロスコー・アウグストス王が左手で【呪印】を空中に描き始める。


【古典魔法】は【呪文】を唱えて、指で【呪印】を描く事で成功率が大きく変化する。頭の中でイメージした通りに【魔法】を発動させるには、どのような【魔法】をイメージしているのか、口でしゃべった方がただ頭で考えているより発動効率がいい。


 だからダン・エルブも【神聖魔法】発動させる時には、【神への祈り】を口に出す!


【私の前方五メール先に居る二十代前半の青年に【炎の矢】は当たる!】

【神よその【魔法】を無かった事に!】


「──何と──」ロスコー王の【魔法】が消去された。

「神様、感謝いたします」ダン・エルブは片ひざを付いて【神】に感謝の言葉を口にする。

「だがまだ私は負けていない!」ロスコー・アウグストス王はそう言って、水晶のバデレールを構える。

 ダン・エルブも青銅のバデレールを構えて立つ。

 二人は【オド】を大量に削り取りながらも戦いを更に続ける。


次回、お楽しみに。

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