レクターレ動乱。残る者と、別れる者。
レクターレ王国、王都レクターレ。その高台に作られた王城の大広間で、数人の男女が話し合いをしていた。
「では残られると言うのですか? ロスコー王、そしてアリアス王妃」レイドル・ウルリス【第三軍】副総司令官がそう言うと、二人はうなずいてこう言った。
「うむ、この騒ぎ。私たち二人の首でも差し出さんと治まるまいよ」そう言ってロスコー・アウグストス王は自分の首をさする。
「一時の別れが今生の解れに変わるだけです」アリアス・アウグストス王妃はそう言ってほほ笑むと、ロスコー王の腕に自分のうでを絡ませる。
「私は残りますぞ!」【宮廷魔術師】バン・アーレは怒りながらそう宣言すると、まるで岩のようにカーペットの上に座りこむ。
「それでは、私もお供させていただきます」【陸軍司令官の一人】マカロス・リクター中将がそう言うと、ロスコー・アウグストス王がこう言った。
「それは困るのだよ、リクター中将。君には私達の子供のめんどうを、見て貰わねばならないからね」そう言ってロスコー王は、父親程、齢の違うリクター中将の両肩に手を置いた。
「それはずるいですぞ、ロスコー王よ。私にだけ“怒られろ”と、言われるのですか?」マカロス・リクター中将は、不満そうにそうつぶやく。
「ええ、私達の分まで怒られていただきたい」レイドル・ウルリスは、妻で同僚のニーア・ウルリス【千人隊長】肩を抱いてそう言った。
「レイドル、そしてニーア! お前達までもこの老いぼれに、生き恥を晒せと言うのか?」
さすがにこれには大きな言葉で、マカロス・リクター中将が文句を言う。
「いえ、そうではありません。私達の考えはもっと悪らつです。その為には貴方の『肩書き』が必要となります」そう言ってウルリス夫妻は、そろって片目をつむる。
「……まだこの老いぼれの命に、価値がある。と言うのか? お前達の命より?」マカロス・リクター中将の目に涙が光る。
「はい、幸いにも私達には子供が出来ませんでしたから」そう言ってレイドル・ウルリスは、妻のニーア・ウルリスの髪を撫でる。
「それにむこうには、スル・ガーゴン【参謀長】と、バンダー・ルー【千人隊長】もおりますし。まともなお目付け役がいないと、どうなるのか」そう言ってレイドル・ウルリス【第三軍】副司令官は、深いため息をついた。
「すまないマカロス・リクター中将」
ロスコー・アウグストス王と、アリアス・アウグストス王妃が頭を下げる。
「お前の名前は、たぶん悪名として伝わるだろう。だから、すまない!」
「分かりました、このマカロス・リクターの名前。立派に汚して参りましょう!」
そう言って、マカロス・リクターは深々と頭を下げた。
次回、お楽しみに。




