レクターレ動乱。つかの間の勝利。
厄介な奴を残して行ったモノだ。
ハル・ラムズはつくづくそう思う。【邪精霊】は取り出して間もない心臓のように動いて。その度に一回り大きくなって行く。
おそらく【水】と、【土】の【精霊】を大雑把に混ぜて。死体の中で培養した、であろうその【邪精霊】は。大きくなるたびに、猛毒の腐敗臭をまき散らしていく。
【太陽神ネファー】の信者達も、やっと自分達がただの生贄である事に気付いたのか。武器を残してあとずさる、だがそんな事で逃げられる程。スターク・ロンの置き見上げは甘く無かった。
先端が鎌のように見える触手をふり回して、逃げる人々を切り裂いてゆく【邪精霊】。人々が悲鳴を上げながら、城から、未だ混乱が支配する城下街へと逃げて行く。その後を追うように【邪精霊】も、街へ進んで行く。
ハル・ラムズは足元に落ちていた、鉄製のバデレールを【邪精霊】に投げつける。バデレールはあっさりと【邪精霊】の身体に刺さる。“鉄”の効果だろう、【邪精霊】の身体がバデレールの刺さった部分から溶けて行く。
「──!!」人間大の大きさまでになった【邪精霊】から、二本の触手が凄まじい速度で、ハル・ラムズに襲いかかる!
だがハル・ラムズは動かない。
高速で飛び出した二本の触手は、ハル・ラムズにかすりもしなかった。
『やはりそうか、こいつ。耳は有っても目を持って無い』ハル・ラムズはそう結論を出すと、頭の中で【呪文】を素早く構築する。いまだに【邪精霊】が、触手をふり回しているためだ。見つかればくびり殺させる!
【特殊能力・熱変動】を使い、相手との距離を目算して。相手にどのようなダメージを与えるのかをイメージする。
『──』【オド】を削って【呪文】に【意味】を持たせる。
【呪文】はみっつ、内容は同じ。ソレを【邪精霊】に投げかけた!
【呪文のひとつめ】が【邪精霊】に命中する。【邪精霊の身体】三分の一が凍りつく。
【邪精霊】が声にならない悲鳴をあげる。ハル・ラムズは安心した、【古典魔法】は【魔術師】が思いもしなかった結果を出す事が多々あるのだ。今回は思った通りの結果が出た。
【ふたつめ】と【みっつめ】が【邪精霊】に命中して、相手は完全に凍り付き【邪精霊】はその動きを止めた。
「何とかなりましたね」ハル・ラムズはそう言って安堵のため息をついた。
「やりましたね、ラムズのダンナ!」堀から上がって来たルドロフ・ドムス百人隊長は、その太い腕をハル・ラムズの肩に乗せ。
「セットが台無しですわ!」ロクサーヌ・アルク百人隊長が、そう文句を言った。
何とかなりました!
では、次回。




