レクターレ動乱。【科学】
『キャアァアアァァアア!!』悲鳴とも、叫び。あるいは鉄の筒の中から解放された、喜びの声だろうか。その【風の大精霊】は明らかに異常な存在だった。
「行け【風の大精霊】またこの鉄の筒の中に戻りたく無ければ、この俺を馬鹿にしたあの愚か者を切りきざめ!」
スターク・ロンの回りを吹き荒れていた【風】が小さな竜巻に変化する、その竜巻の上部には半透明のドクロが浮かび。同じく半透明の鋭い爪を持つ腕が、四本伸びていた。
「困りましたね」髪の毛を剃り上げた頭をさすると、ハル・ラムズはそう愚痴を言った。
【風の大精霊】それだけでも大型の魔物並みに厄介な相手なのに、狂気に囚われているとなると。何をして来るか解らない!
「とりあえず先手を取らせていただきます」そう言って右手を突き出す。
熱線が指向性を持って【風の大精霊】を焼く。
『ギャアアァァァア!』熱線の当たった場所の気圧が一瞬で変化をして、【風の大精霊】の支配力を削ぎ落した。
「行けますか」そう思ったハル・ラムズだったが、それも一時的でしか無かった。【風の大精霊】は自らの気圧を上げて、熱線に炙られて起こる“一時的な気圧の上昇”を最小限に抑え込む。
「さすがに何度も同じ手は効きませんね、ではこれはどうでしょう?」ハル・ラムズは両手を大きく広げて、何かを持ち上げた。
『ギ!?』【風の大精霊】を構成している竜巻が消えた。
「ハル・ラムズ、貴様何をしたぁ!!」スターク・ロンが叫ぶ。あれ程の【風の大精霊】を消滅させる方法など、【精霊魔法の使い手】には思い当たらなかった。
「なに簡単な事ですよ、竜巻が何故出来るか知っていますか? 竜巻は気圧が低い場所に発生するのです。幸いにもあの【風の大精霊】は自分の気圧を上昇させました。先程も言いましたが、竜巻は気圧が低い所で発生します。だったら竜巻の周りの気圧を、竜巻より低くしてあげれば竜巻は維持でき無くなるのです」
スターク・ロンは口をパクパクさせながらそれを聞いていた。何故ならそのような話を聞いたのは、初めてだったからだ。気圧とは何だ? そしてそれが何故竜巻の発生と、関係するのだ?
竜巻とは機嫌を損ねた【風の精霊】の怒りでは無いのか?
「貴方達が知らなくても恥ではありません。これは【古典魔法】と【科学】の融合によって解った事なのですから」
『【古典魔法】と【科学?】何だ? 何なのだ、その【科学】とか言う【学問?】は?』スターク・ロンはただ悩む事しか出来なかった。
それでは、次回お会いしましょう。




