レクターレ動乱。アウグストス。
王都レクターレで内乱発生。その報告がアルテア・アトラウス・アウグストスのもとに届いたのは。スーラートでリリシア・アウグストスの父親、アレク・アウグストス伯爵との会合の席上での時だった。
アウグストス家の人間のみ受信出来るように設定された、その特別な【魔道具】から放たれる【強力な念話】は。鉄の鎧でも付けていなければ、どのような【魔術的防壁】も突破すると言われている。
「あぁ、何と言う事か!」まだ三十歳になったばかりの、アレク・アウグストスは大いに慌てるが、ガラスの割れる音で我に返る。
アルテア・アトラウス・アウグストスの左手に持っていた、ワイングラスが握り砕かれていた。
その左手から滴る液体は、赤ワインかそれとも血か。
アルテア・アトラウスの視線の先に在るのは王都レクターレ。
誰も何も言わなかった。いや、言えなかった。会合と共に行われていた舞踏会、その窓際で行われていた、二人のアウグストスのたわいの無い会話。その中に突然飛び込んで来た、とんでも無い情報。慌てふためく分家のアウグストスと、更に血の薄まったアウグストスを名乗る事も出来ない貴族達。その中でただ一人の本家のアウグストス。
こんなにも違うのか? そう思わせるアルテアの佇まい、アルテアは、アルテア・アトラウスは。
アルテア・アトラウス・アウグストスは、静かに激怒していた。
シン、と静まった舞踏会場で貴族達と、侍従や執事は思う。
「本家の人間とはこれ程、我々が知っているアウグストスとは違うのか! 一体どこの馬鹿者か。アレをここまで怒らせてしまって、誰が責任を取ると言うのか!!」
アルテア・アトラウスのお付きの侍従だろうか、膝まであるウェーブのかかった青い髪の毛を持つ。十二歳位のエプロンドレスを着た少女が、左手に包帯を巻きつける。
「失礼します、アルテア・アトラウス・アウグストス様。たった今【念話】が【軍部】から届きまして、その…」
「分かっている、わたしのところにも今来た」その言葉に兵士は頭を下げる。
「それではわたしはこれで失礼します」
そう言ってアルテアは会場を出て行った。皮肉にもアルテアが今夜着ていたのは真っ白な軍服だった。
その軍服に付いた赤い染みが、これから流される数万の血を想像させた。
ううう、じれったい。
頭の中の情報を、そのままデータで送れないモノか!
それでは、次回。




