レクターレ動乱。その前、その3。
アルテア・アトラウス・アウグストス【第一王位継承者】の長い一日はこうして終わり。
翌日アルテアはスーラートと言う町に住む、金色の髪の毛に緑色の瞳を持つ。まるでお人形のような十二歳の従妹、リリシア・アウグストスのもとへ馬車で向かった。その傍らに鳥かごを持って。
アストン・アウグストスは朦朧とする意識の中、なにが自分の中で起きたのかを考えていた。半年前、たった半年前まであれだけ健康だった自分に、なにがあった?
アストン・アウグストスの寝室のとびらがノックされる。もう返事をかえす事さえ出来ないアストン・アウグストスの代わりに、最近白髪の多くなった、執事の男性がとびらを開ける。
「アストン様、お食事をお持ちいたしました」そう言って入って来たのは、半年前から身の回りの世話をしている侍従の一人だった。──また半年か、半年──
アストン・アウグストスは、執事の男性を弱々しく手招きをする。
黒い服を着た執事が、アストン・アウグストスのもとへ駆け寄る。アストン・アウグストスはその執事に何事かささやくと、執事の顔からでる齢相応の温和な雰囲気が消える。
「どうかなさいましたか?」侍従はそう言うと、執事の男性は眼鏡を直してこういった。
「アストン様のご命令である、侍従。その食事をこの場で食べなさい」
侍従の顔が引きつる。
「どうした侍従、我らのあるじのご命令で在らせられるぞ?」執事が、蝶ネクタイを解く。
「あらあらどうしたのです? 騒がしい」そう言って出てきたのは、アストン・アウグストスの妻である。ミリシア・アウグストスだった。
「ミリシア、まさかお前が…」アストン・アウグストスの顔に、驚きの色が浮かぶ。
「ミリシア様、わたくしの最後のお願いを聞いてください。そのお食事を食べていただけませんか?」アストン・アウグストスに、忠誠を誓った執事が。椅子に立てかけてあった杖を左手で持つ。
「あら嫌ですわ。私、まだ死にたくありませんもの」ミリシアはそう言うと扇子で口もとを隠した。
その瞬間、仕込み杖から細長い剣を引き抜いた執事が。ミリシア・アウグストスの喉を切り裂きに走る。が、戦闘経験のある侍従達五人が、スカートの中からダガーを取り出すと。執事の剣を受け止める。
戦いは五分で終わった。執事は五人の内、四人まで殺したが。そこまでだった。
「では、お食事を楽しんでくださいね、あなた。この部屋はその後で掃除をさせます」そう言うと、ミリシア・アウグストスは部屋の外へ出ていった。
五人の死体がころがる部屋で、アストン・アウグストスの目に涙があふれた。
こ、これで書き切ったはず。
前日譚はもう無いと思います。
では、次回にまたお会いしましょう。




