レクターレ動乱。勃発。
ロエル・ハス少佐は年齢に比べて十歳近く若々しく見られるその顔に、作り笑顔を浮かべながらこう言った。
「なあ、アッガス・マルド少佐。こちらに付く気は本当に無いか? その気があればキミを【新生陸軍騎士団の副司令官】に抜てきしてあげるよ?」
「嫌なこった!」アッガス・マルドは即答する。
「私は自分をよく知っているのでね、ハッキリ言って私は“副”司令官では物足りないし。私のような司令官の下では働きたくは無い!」アッガス・マルドはキッパリと言った。
「そう思うだろう? お前達も?」豪快に笑いながら自分の後ろに居る三人を見る。
後ろの三人はとっさにあさっての方向を見る。
「そう言う事だ! スカウトするのなら他の誰かにするんだな!」
「残念です」そう言いながら、何故かおかしそうに笑うロエル・ハス少佐は指を鳴らす。
ロエル・ハス少佐の後ろに、四人の屈強そうな人物達が現れる。
「なんだよ、まだ部下を隠していたのか? 戦力の逐次投入は戦いでは“必敗”に繋がると、教わらなかったのか?」そう言ってアッガス・マルドは、十二人の死体を指さす。
「何言っているのですか? そんな役立たず達が私の部下なわけありませんよ」そう言ってロエル・ハスは鼻で笑う。
「良かったよ」アッガス・マルドの顔から、迷いが消える。
「? 何が、でしょうか?」ロエル・ハス少佐はそう言って、アッガス・マルド少佐を見る。
「おまえを殺すのに、後悔の念が微塵も無くなった」バデレールを構えたアッガス・マルド少佐の気配が、大きくなった気がした。
「おぉ、怖い怖い」そう言ってロエル・ハス少佐も、腰に下げていたバデレールを抜く。
アッガス・マルド少佐と同じ身幅の広いバデレールだが、刃が濡れているように見える。
『この下衆野郎、刃に毒をぬっているな!』よく、アッガス・マルド少佐を“蛮人”扱いする人はいるが。そんな人間でも少佐を“卑怯者”とは決して呼ばない。
アッガス・マルド少佐にとって“野蛮人”や、“イノシシ”と言う言葉は。ある意味で『ほめ言葉』なのだ。
だがこのロエル・ハスと言う奴は、どんな時でも『これだけは使わない』と決めたモノをアッサリと自分に向けた。許せん!
ロエル・ハス! お前は簡単には殺しはしない!
最初に動いたのはアッガス・マルド少佐だった。
最初中段に構えていたバデレールを、手首のスナップだけで切っ先を真上に上げ。一メール(約一メートル)あったロエル・ハスとの距離を一瞬で詰めて、相手の頭に振り下ろす。
素早く、そしてまったく無駄の無い一撃だった。が、そんなマルド少佐の攻撃を、ロエル・ハスは自分の持つバデレールを、ただ横に振るうだけで無かった事にする。
アッガス・マルド少佐の攻撃は、正確に相手の急所を叩かないと成立しない。
だがロエル・ハスの攻撃は、相手にただ切り傷を付ければいい。後は毒が相手を勝手に殺してくれる。
二撃目、アッガス・マルド少佐はさっきと同じカタチで。全く同じ攻撃をロエル・ハスに見舞った。
ロエル・ハスはその攻撃を、バデレールで受け止める。さっきと同じステップをきざんで、後ろに下がるアッガス・マルド少佐。
そして三撃目も全く同じ方法で、攻撃を繰り返す。
全体的にアッガス・マルド少佐より弱いとされるロエル・ハスでも、三度見れば反撃出来る。ロエル・ハスの口元に嘲りの歪んだ笑みが浮かぶ、だがその笑みは凍るように固まった。
「ギャアア!!」ロエル・ハスが叫び声をあげると同時に彼の愛刀が地面に落ちる。
彼の右手首を付属物に付けて。
ロエル・ハス直属の部下三人が、慌ててアッガス・マルド少佐に切りかかる。が、それを許す部下をアッガス・マルドは連れ歩かない。
右手首と、三人の部下を同時に失ったロエル・ハスは。ひざをガクガクと震わせて涙をながす。
「さあロエル・ハス。覚悟はできているよな」アッガス・マルドは、凄みのある視線で脅える仔犬のように震えるロエル・ハスを見る。
だが世の中のスピードは、アッガス・マルドの予定よりも。数倍は早く進んでいるようだった。
「アッガス・マルド少佐! 伏せろおぉ!!」聞き覚えのある声。覚えたくないが、鼓膜にこびりついてしまったその声に従った。
ロエル・ハスの身体を、五本の弓矢が突き刺さる〔咄嗟に伏せたおかげか、自分達を狙って放たれて。壁に刺さった弓矢の本数は十五本あった〕。
「大丈夫か! アッガス・マルド少佐!」そう言って、ショートボウ程度の大きさしか無いのに。ロングボウ並みの威力がある、コンポジットボウを操る【弓騎兵隊】の隊長。レイガス・サロー少佐が現れる。
「一体何事だ。お前今度は何処の貴族のご婦人に手を出したんだ? 私を巻き込むなとあれ程言っただろうが!」
「バカヤロー! そんな事でこんな大事が起こるか! 反乱だ!」
「ナニ?」
「クーデターだよ! このレクターレ王国で、クーデターが起きたんだ!」
さぁ、起こってしまいました。
レクターレ動乱編です。
本当はもう少し伸ばしたかったのですが。
起こしてしまったのですから、仕方のない。
では、次回。




