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ヒマな魔王様はヒマが欲しい  作者: さんごく
5章・魔王誕生、その二。

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スターク・ロンと、【精霊魔術】

 朝、スターク・ロンは酷い頭痛で目を覚ます。

 ベッドの上にまでビール瓶が転がっているのを見て。

「ああ、このままではアルコールで命を削って行ってしまう」そう独り言をいうのが、ここ数年彼の毎朝行なう日課となっていた。

 だが仕方が無い。この数年は酒のチカラを借りないと、よく眠れないのだ。

「とにかく身支度をしないと、今日はミリアン・アウグストス様の家で。家庭教師をしなければならない」そう言うと、スターク・ロンは呼吸を整える。体の外に存在する【マナ】を認識して、ソレを『呼吸』するかのように体内に入れて【オド】即ち【魂】を大きくする。

 スターク・ロンはその大きくなった【魂】を削る。

 全身から汗が出る、もちろんただの汗では無い。その汗には高い純度のアルコールが含まれていた。

 文字通り彼はアルコールを体から出す為に【魂】を削ったのだ。

「ふうう…」【魂】を落ち着かせる為に大きく息を吐くと。アルコールの臭いがしみ込んだ寝間着を脱ぎ、バスルームへ何も着ずに向かった。


「エー、このように妖精達が考えたのが【精霊魔法】と言われております。三週間前にも言いましたが、【精霊魔法】で使われる【精霊】は、【火の精霊サラマンダー】、【水の精霊ウンディーネ】、【土の精霊ノーム】、【風の精霊シルフィード】の四種類を主として。更にこの四種類の精霊のチカラを掛け合わせて──」スターク・ロンがゆっくりと話す【精霊魔法】の二度目になる基礎の話を、ミリアン・アウグストスは紙に書いて行く。

「【精霊魔法】は便利な【魔法体系】です。基本的に四種類の【精霊】との【契約】で成立するのですから」スターク・ロンはそう言って自分の持つ教科書をめくる。

「──【魔術師志願者】の中には【精霊魔法】を“あえて使わない”者達もおります」ミリアン・アウグストスの指がピクリと動き、紙に書いた文字が歪む。

「この行為は今の世の中、マッチがあるのに火打ち石で火を付けるのと、同義であると考えます。即ち『無意味である』と!」スターク・ロンの教科書をめくる左手が、固く握りしめられる。

 スターク・ロンも【精霊】と、アルテア・アトラウスとの“因縁”は知っていた。アルテアが【精霊】に愛され過ぎる事も、そのせいで【精霊】に誘拐されかかった事も。

 だがそのような些細な事はどうでもいい。

 スターク・ロンが許せないのは、そこまで【精霊達】に愛されている人物が。彼の毛嫌いしている【変異体】である事だった。

 アルテア・アトラウス・アウグストス。女でもありながら男でもある人物、何故【精霊】はそのような【出来損ない】を愛すと言うのか! 何故おれのように【精霊達】をこれ程愛している人物を、同じように愛してくれないのか!


 もう数十年も昔の話だ、スターク・ロンはマジックアカデミーで【精霊魔法】を選考していた、──いや信奉していた。それ程彼は【精霊魔法】を、【精霊】を愛していたのだ。

 だが現実は厳しかった。

 彼がどんなに【精霊達】に愛をささやこうとも、【精霊】はその労力の半分もスターク・ロンにチカラを貸さなかった。

 そして彼が密かに恋心を抱いていたが、こっぴどくふられてしまった【精霊】に愛されていた女性は、緑の髪を持つ【変異体】だった。

「君には【精霊魔法】の素質が有りません。もっと自分の才能を活かせる学部に再選考するべきです」そう助言した先生も、茶色い髪からネコの耳を出した【変異体】だった。

 その夜前後不覚なまでに酔ったスターク・ロンは、ゴミ捨て場で寝ていると。

「どうしました若者よ」と誰かが声をかけてくる。

「うぁ…」アルコールのせいで焦点を合わせづらくなった目を動かしその人物を見る。

「ああ、【司祭様】…。あんたでもいいか、おれの悩みを聞いてくれるか?」スターク・ロンは中年、と言うより初老といった感じの【司祭】にそう告げる。

「勿論です。私達はその為にいるのですから」そう言うと【司祭】は微笑んだ。

 スターク・ロンは脳ミソをアルコール付けにしながらしゃべった。所々意味不明な愚痴が入ったが、自分が【精霊】を愛している事を熱心に伝えた。だが【精霊】からは愛される事が無かった事、そして【変異体達】への逆恨み…。

「よく分かりました、明日【司教様】へ謁見すれば、あなたの悩みは解決されるでしょう」そう【司祭】はあっさりと言うと、懐から自分の名刺(彼の名前はアンソニー・バレンツと書かれていた)を取り出す。

「え…」呆気に囚われていたスターク・ロンを、ニコニコと微笑みながらバレンツは。

「では明日お会い致しましょう」そう言って去って行った。

 翌日スターク・ロンは初めて寺院へと足を運ぶ。

「良く参られました」昨日渡された名刺を見せると、人々は皆微笑みながら彼を【司祭】の元へと案内する。

 アンソニー・バレンツは笑みを絶やさずに、スターク・ロンを【司教】ブール・ベル(後に【大司教】へ出世する)と会談させた。

 それがスターク・ロンの人生を大きく変える第一歩となった。

 彼は【精霊達】に【大魔法を使わせる方法】を手に入れた。

「あの方法は邪道!」そう言う【術者】をスターク・ロンは【力】でねじ伏せた。

 そして【学長】を追放した今、この国で彼に意見出来る【精霊術師】は消えたのだった。


では、次回に会いましょう。

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