魔神と、戦い。
空中を漂いつづける大量の真水は、しだいに球体へとカタチを整えてゆく。
完全な球体となった水の中に少女のすがたが見える。
少女はまるで胎児のようにその身体を丸めて、目をつぶって水の球体を漂っている。
注目すべきはその髪だった。
青色をしてウェーブのかかった髪の毛は、まるで生い茂る海草のように裸の少女に絡みついていた。
ゆっくりと少女はその閉じられたまぶたを開いてゆく。その瞳の色は黄色かった、まさしく彼女はアルテア・アトラウス・アウグストスの魂の眷属だった。
満足そうにアルテアはうなずく。
少女の口もとに笑みが浮かぶ。
──いつからだろう、アルテア・アトラウスの手にソレが握られていたのは。
アルテア・アトラウス・アウグストスの右手には、水晶の柱から削り出されたバデレールと言う。幅の広い若干短めの刀があった。
水中の少女の笑みが大きくなる。少女が口を開くと、その口には鋭い犬歯がのびていた。
少女が右手人差し指を動かすと【高圧水流の剣】がアルテアを襲う!
アルテアはひと言つぶやくと、足元にぼんやりと光る【防御結界】が張られてその【水の剣】をはじいた。
「なんという戦いか!」バン・アーレはおのれの弟子と、その弟子が造り出した【デーモンの少女】との戦いを。驚きを込めて見入っていた。
【デーモンの少女】はまだ造られて五分の一刻も経っていないと言うのに、【高圧水流の剣】を自由自在に操って見せ。
そしてその猛攻を受けているアルテアは、その攻撃を全て【防御結界】で受け止めて見せていた。
しかも二人の顔には、まだまだ余裕の笑みが浮かんでいる。
「なぜ笑っていられるのだ!」おもわずそう口に出てしまう【デーモンの少女】はともかく、アルテア・アトラウス・アウグストスには一撃でも当たったら最後。それほどの攻撃を受けていると言うのに。
──だがこの戦いは、アルテアの不利で進んでいた。【デーモンの少女】が扱う【高圧水流の剣】は、どう短くても五メール(約五メートル)はあった。
それに引きかえアルテアの持つ水晶のバデレールは、六十セチ・メール(約六十センチメートル)程しか無い。
どれ程強力な武器でも、届かなければ意味が無い。
だからアルテア・アトラウスは【防御結界】を越えて、【デーモンの少女】の元へ走る!
「危ない!!」バン・アーレは思わずそう叫んだ!
『愚か者が!』【少女の姿をしたデーモン】は自分の【造物主】を蔑むように笑うと、【高圧水流の剣】で切りかかる。
【水の剣】が大理石の床を切り裂きながら、アルテア・アトラウスに襲いかかる。だが、アルテアはそんな攻撃を左横に体を逸らすだけで回避する。
『ならばこれでどうだ!!』軽く舌打ちをして【デーモン】が上下に振るうだけだった【高圧水流の剣】を、横へ薙ぎ払う。
アルテアは切断される大理石の柱を見ると、大きく天井へ飛び上がる。
『その動きはお見通しだ!』水の中でその光景を見ていた【少女の姿を持つデーモン】が、右手人差し指をアルテア・アトラウスへ向ける。
天井近くで滞空していた、アルテア・アトラウスの胸に突き刺さった【高圧水流の剣】
アルテアの口から吐き出される鮮血。
『これで、とどめ』人差し指を真上まで動かす【デーモンの少女】
アルテア・アトラウス・アウグストスの身体が、胸から頭の先まで左右に分断される。
『わたしの勝利だ』そう【デーモンの少女】は確信する。──そう思ったその時、アルテア・アトラウスの死体が消えてしまった。
「そうだ、すべてが幻影だ」──何? 慌てて自分の後ろを見ようとする、が。つぎの瞬間自分の胸から“水晶の刀”が突き出る。
少女の顔に、驚愕の表情が浮かぶ。
「おっと、動くなよ。指一本でも動かした瞬間この刀に【魔力】を通すぞ」その言葉を聞いて【デーモンの少女】は、自分が【造物主】に負けた事を悟った。
落胆の表情を浮かべる【デーモン】に、アルテア・アトラウス・アウグストスはこう言う。
「まだ生まれたてのお前に、真名を付けてやる。勿論、拒否権は無い」良いな、と言う言葉。──もとい、絶体絶命を受けた【デーモンの少女】は。
『──勝手にしてくれ──』半ばやけくそで、そう言った。
「では、このような真名はどうだ?」そう言って、アルテアは【少女】に小声でつぶやく。
──ふむ、なかなか良い“真名”ではないか。【デーモン】としての尊厳がありながら、人間では発音が難しい。そして今の姿にも合っている。
『わかりました、マスター』そう言うと、わたしのマスターは。“水晶の刀”を背中からゆっくりと抜いてゆく。
「先生、どうですか? わたしの【使い魔】は。名は“リナ”と言います」愛弟子はそう言い。
『よろしくお願いします』膝まで伸びる青い髪の【可愛らしい少女】は会釈した。
この辺は、『魔王誕生、その二。』のプロローグみたいなものです。
この先は僕の頭の中にしかありません。
──いや、ノートに書こうと思っていたのですが、ドーモ鉛筆が進まない。
この先も、「何がおこるのか」は僕にも、ぼんやりとしかわかりません。
では、次回。




