ネコ、人の心を話す。
「もっともわたしは産まれた時に「この赤子は不老不死である」なんて言われたらしいですけど」そうアルテアはトルクゥに自分の出生の秘密を簡単に、そして軽く打ち明けた。
トルクゥが決して軽くない衝撃を受けている間も、アルテアは気にせず話す。
「でも彼ら、人間をやめた『魔王』の心情も解らないわけではありません。そりゃあそうです。もし自分の寿命が尽きてしまったら、その後誰があとをつぐか…『魔王』とまで呼ばれてまで探して、または守ろうとしてきた物が簡単に消えてしまう。わたしでもその恐ろしさが分かってしまいます」そうアルテアは言うと左手で自分の右腕をさする。
「でも先ほども言いましたが“バンパイア”や、その他の何かうまい手で永遠に近い寿命を手に入れても、良い部下がいなければ早晩その国は滅びます。だってそうじゃないですか“人”を辞めるということは、“人”の心も捨てるということです。人の痛みを思い出せなくなったモノでは、国の運営は出来ません」アルテアはそう続けて、さらに話す。
「もちろん普通の国のように子供がいれば、その子につがせる。という、至極普通の方法が一番良いのは当然ですが、『魔王』の国へと嫁ぐ人などそう簡単には見つからないのが事実。どんなにその国が栄えようとも、ね」ああ、なるほど、とトルクゥは思い当たる。魔王のおとぎ話と言えば『勇者』と『魔王』、そして『お姫様』の話も有名だった。魔王がどこそこのヒロイン普通は、お姫様をさらい。それをさすらいの勇者が救い出して、ハッピーエンドを迎えるありきたりなおとぎ話。
「そうそうそのお話」とアルテアもうなずく。
「あれはけっこうよくある話なんですよ。魔王だって性欲が無い訳じゃない、悶々とする夜もある。だからと言ってあちこちの女に手は出せない。だって『王』なんですよ? 商売女なんかに手を出して、もしもご懐妊なんて事になったら目も当てられない。それだったら万に一つの可能性に賭けて、いい女。出来れば貴族、『王』の花嫁に他国の『姫』つまり本当の『王族』の血を入れたいと思ったら、多少の強引さも分かると言うもの!」そう言いつつアルテアは爆笑していた。当然トルクゥも笑っている。
「まあ、当然そんな事をすれば正当な国が黙っている訳が無い。早晩、戦争の始まりですね。当然と言えば当然のお話です。……あれ? なんでこんな話をしていたのでしょう?」アルテアは不思議そうに小首をかしげる。トルクゥは大笑いをする。
「あ、そうそう良い部下の話だった。エー、おほん! 良い部下と言う者ほど本当の“宝”はありません。『魔王』がその魔王国を支えている用に見えているのは、その下で良い部下が色々と根回しをしてくれているからです。たとえ普段少々小言が多くても、です。我々『魔王』の国にはその国の成り立ち上、脛に傷の有る者が集まる傾向があります。何故なら『王』自体がその脛に傷がある者が多いからです」アルテアは少し顔をしかめる。
トルクゥはこの人にはどんな傷があるのかと思い、それを飲み込んだ。今トルクゥとアルテアの間はとても良い関係がある、それを壊すほどトルクゥはバカではない。
なぜ魔王が、人の心の在り方を話すのか。
そして魔王とて、性欲からは逃げられない。
という話でした。