ネコ、猫の手も借りたい話をする。
「その後、午後の執務があります。もちろん午前の書類の整理が終わっていたら、です。ええそうです、午後の時間が天国となるか地獄となるかはここで決まります!」そうアルテアは大げさに言うが、その表情はとても真剣だった。──なにか軽くトラウマになっているようだ。
「午後の仕事は割とバラエティーに組んでもらっています。その日によって違いはありますが視察がある日は、とても楽しいですね。町、農業、そしてわが町の最大の産業である、魔石の鉱山の視察はとても楽しいです。なんたってその日採掘された魔石が、最低でも一個はもらえますから」そう嬉しそうにアルテアは言う。
魔石、確か精霊などを封印出来る石だったかな。トルクゥは魔法には疎いのでその程度の認識しかなかったが。『魔術』を職業としている者達にとってはまさに、宝石以上の価値がある石だった。この石の有る、無いで命に係わる事だって大いにある、それ程の宝の石であった。また正確には、“魔蓄石”というのが正式の名であり。“石”以外にも“魔蓄”出来る物体がある。それらは“魔物の体の一部”だったり、“木”であったり、なかには“水”であったりもする。
特徴的なのは、その“魔力”をたとえ使い切っても、頬っておけば又“魔力”を持ち始める事だった。まるで回りから“魔力”をかき集める要に。
「言っておきますが、町の見学や、農地や牧畜されている家畜の視察を、下に見ている訳ではありません。当たり前ですけど普段の生活にかかわりますからね。生活に係わる事をおろそかになんてできません」それに、とアルテアは続ける。
「作物や、家畜の品種改良などが、おこなえるかもしれません。魔術で」フフフと何やら怪しげに笑うアルテア。
トルクゥは少しだけ王様としての評価の上がったアルテアという『魔王』を、また“要注意”へと下げる。やっぱりろくでもないな、『魔王』とは…。
ふと、トルクゥは思う。丸々午前中を使って何の書類仕事が『魔王』に在るのだろうか。
「午前中の書類仕事ですか? もちろん、税金の収入と支出ですよ」アルテアは、当たり前のように言う。
「みんなから集めた税金です、無駄には使えません。例えば兼業していない『衛士』などの給金。有事の際、皆に支給する武具の整備や、古い物を新しく買った場合の収支の算出。町の新しい建物や、古い建造物の補修、点検、取り壊しなどの資金。等々が毎日のように書類としてわたしのもとへ送られて。それを見て決済のサインをするのです」アルテアはそう言った。
トルクゥは驚いた。“魔王の王国”といえば、もっと殺伐とした荒くれ者達が毎日殺し合いでもしているのかと、思っていたからだ。そして『魔王』はそんな部下たちの行いを水晶玉から見ているものとも思っていた。
トルクゥがそう言うとアルテアはクスクスと笑いながら「確かにそういう『魔王』はいます。例えば永遠の命を求めて、アンデット“バンパイア”へと自らを変えた『魔王』達がたしかに。でもそういう事が出来るのは、良い部下を持つ古い『魔王』だけなんです」
……、僕だって全能ではありません。
…というお話が、まだ続く。




