戦い。門番。
大門の南側、そこから真っすぐ八百メール(約八百メートル)程先にある林の奥から火の手が上がる。
林のあちこちに上がった火は、あっという間に炎となって林全体に燃え広がる。
「鐘塔へ行って鐘を鳴らせ!」茫然とその光景を見ている二十代の同僚に、ガン・オンは命令をする。
「……え……」呆気に囚われていた同僚は、ガン・オンが放った初めての“命令”を聞き返して来た。
ガン・オンは右手で同僚の襟首をつかむと、混乱している二十代の青年に大声で叫ぶ。
「鐘塔へ走って行って、鐘が壊れる位に打ち鳴らせと言ったんだ!!」
同僚は思わず上官に行う様な敬礼をして、命令通り鐘塔へと走り出した。
走り去って行った青年の後ろ姿を見た後、ガン・オンは険しい顔をして燃え上る林に視線を送る。
あそこに居るのはおそらく、あの時の……。
それは燃える林の中からゆっくりとその姿を現した。
「でかい……」ガン・オンのとなりで、同じく燃える林を見ていた一人が、思わずそう口に出す。
全長十五メール(約十五メートル)はあろうか。その巨体を強靭な後ろ脚で支え、その前脚は、若干後ろ脚より短いモノの、充分に筋肉が発達しており。四本の指の先端からのびる巨大かつ、強靭な爪は、岩ぐらいならば簡単に砕いてしまいそうだった。
こげ茶色に赤いまだら模様をした、ゴツゴツとした皮膚は全身を覆い、背中から生えた一対の翼は、差し渡し四十メール(約四十メートル)はあった。
「やはりアイツだ……」ガン・オンはそうつぶやいた、何故なら左前脚。その脚首から先が千切れていたからだった。
この町の近くで最後に目撃された、五十人の【戦士】を殺して左脚を残して消えた、ドラゴン。いや。
グレータードラゴン。
そいつが今またこの町にやって来たのだ。前回は五十人の【戦士】が命を落として押しとどめた、その中にガン・オンはいなかった。
彼はこの町の片隅で震える事しか出来なかった。
「今回は逃げない」ガン・オンは小さく、そして重くつぶやいた。
逃げない。いや、逃げられない、あんなみじめな思いはもう御免だ。
それに、オレはもうこの町の住人で、この町の安全を守る【門番】だ!
鐘の音が町中に響く。
あの時から止まっていた時間が、ガン・オンの中でまた動き出した。
ガン・オン。思わず指が滑って、カッコイイ男になってしまった。
……どうするべきか。
次回に会いましょう。




