ネコ、罪を裁く。
「たとえ書類整理の真最中でも、町中で騒ぎが起こったら素早く駆け付けないといけません。勿論それなりの格好で、です。寝巻のままなんて許してくれません『魔王』と言うのは恐れられてこその称号です。例え執務室でどんな格好をしていても、書類の山に愚痴をこぼそうとも、それを観られていいのはごく一部の人のみだけです」そうアルテアは言って腕を振り回す。相当鬱憤が溜まっているようだった。
「また話がそれましたね『衛士』の手に負えない、暴れん坊がわたしを見ておとなしくしてくれれば、わたしの出番はそれで終わりです、が、中にはわたしを見て更に暴れる者もいるんですよね、ほんの一部には。そういう時にはわたしは出来るだけ手加減をしてバツを与えます、でもこれがスッキリするんです」アルテアは笑いながらそう言った、…とても良い笑顔で…。
「その後『衛士長』達が裁判の日にちを決めます」
「え?!」トルクゥの顔に驚きの表情が浮かぶ。
「? どうかしましたか?」アルテアはトルクゥの顔を見てそう言った。
「今の話しが裁判の結果じゃあないんですか?」トルクゥはそう言った。
「いえ、あれはむやみやたらに暴れた事へのバツです。よく居るんです自分は悪くないのに暴れる奴って」特にわたしの近くには、と『魔王』アルテアはため息をつく。
そう言えば、俺の住んでいた村にも一人そんなのがいたな。とトルクゥは思う。
「…そう言えば今話していたのは、午前中のお話でしたね。何だか随分と余計な話になりましたが、いや、お昼の食事の後は裁判などもありました。だから関係ないとは言えないか」そうアルテアは言う。
トルクゥは少しだけ『魔王』という存在の行う裁判に興味を持った。かつて住んでいた村では“裁判”何てものには縁遠かったからだ。村では『村長』に全ての権限がある、『村長』がそう決めると村は従わなければならない仕組みだったからだ。
「昼食の後は町でおこった色々な仲裁件やらの裁決や、数日前に起こった事件なんかの裁判を行なったりする。まあこれは流れ仕事の様に行えばいい。さっき分かったと思うがわたしには人の考えが分かるからね、どんな嘘だろうと心の中までは噓は付けない」アルテアはフフフと含み笑いを浮かべる。
「それ、反則じゃあないですか?」トルクゥは思わずそう言うが。
「これほど公平な裁判が他に有りますか?」アルテアは平然とそう言ってのけた。
…それはそうだろうけど、とトルクゥは思ったがやっぱり納得できない。確かに心の中まで噓で塗り固めた奴なんていないだろうけど、トルクゥが聞きたかったのは。数年前に村に来た『吟遊詩人』が聞かせてくれた。何処かの国の裁判官が行なったと言う誰もが出来る事の無い、それでいて誰もが拍手する“裁き”というのが聞きたかったのであって、そんな反則が聞きたかったわけじゃあない! するとアルテアは。
「読心術が出来るのは、魔法だけとは限らないんですよ」と、意味深な事を言った。
某、時代劇のような事。僕のオツムで出来るわけが無い。
という事です。