戦い。殺戮。
十匹のレッサードラゴンは、表通りから逃げ遅れた人々を引き裂きながら走って行く。
レッサードラゴン共は四本の指に生えたかぎ爪を使って、のどや腹部を切り裂くが、その傷はあえて浅く付けられていた。
本来ならば、数秒も持たずに死んでいておかしく無い生き物の急所を選びながら裂いているのだ。だが、被害者は傷口を押さえて数十秒ものあいだ、石畳の上で鮮血をまき散らしながらのたうち回り、苦悶の表情を浮かべて死んで行く。
「カカカ、ケケケ」
レッサードラゴン共は、まるで嘲笑うかのような鳴き声を放ちながら、前脚で獲物に襲いかかる。
男も、女も。老人、子供など関係無く、目に付いた人々を殺してゆく十匹のドラゴン達。
それは狩りではなかった。
狩りとは獲物を倒して食料とする行為であって、致死的な傷を付けて置きながら、敢えてとどめを刺さずに次の獲物に襲いかかる事を狩りとは呼ばない。
彼らドラゴンは楽しんでいた。自分達のすがたを見て恐れ逃げ惑う生き物を殺害する事を。相手はたくさんいるのだ、一匹殺すのに時間をかけていたぶる意味は無い。
「カカカカ、ケケケケ!」
十匹のドラゴンは、前脚のかぎ爪を振り回す。それだけで獲物となった生き物達は、致命傷となる大けがを負ってゆく。
血の匂いで、元々少ない理性が吹き飛び、ドラゴン共は殺す為に町の中を進んで行く。
後ろ脚で石畳を踏み込み、四本の爪がイヤな音を立てて爪跡を刻み付ける。
すでに血の匂いで興奮しきった十匹のドラゴンには、生きている物はすべて殺戮する標的でしか無く。壊せる物は破壊する目標でしか無くなっていた。
ドラゴン共の通った道には、前脚の先に生える、四本の指の先端からのびる爪から滴る血が、点々とまだら模様を描いて行く。
「カカカカカ! ケケケケケ!!」
今ドラゴン達を支配しているのは、圧倒的な優越感だった。
今ドラゴン達を動かしているのは、その支配感を永続的にしたいという欲求だった。
十匹のドラゴン共はまだ若く、そのため誤解が解けなかった、──いや、知らなかった。
今、自分達が殺戮している生き物達が何なのか。というごく簡単な事に。
この殺しがいの無い生き物達が、この世界を支配している生物の一種類だという事を!
『人間』このひ弱な生き物達が世界中で生息し、食物連鎖の頂点に立ち。かつては、その座に君臨していたドラゴン種を文字通り引きずり落とし、絶滅一歩手前まで追いやった生き物である事を。
この若いドラゴンの群れは、その事をまだ知らずに殺戮を楽しんでいた。
書けたぁ。
半日かかったよぉ。
では、次回。




